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3Mベルギー工場停止、驚愕のインパクト 〜世界の半導体工場停止の危機も湯之上隆のナノフォーカス(49)(3/3 ページ)

2022年3月8日、米3Mのベルギー工場が、ポリフルオロアルキル物質(Poly Fluoro Alkyl Substances, PFAS)の一種である、フッ素系不活性液体(登録商標フロリナート)の生産を停止した。これによって半導体生産は危機的な状況に陥る可能性がある。本稿では、PFAS生産停止の影響について解説する。【訂正あり】

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新増設する半導体工場が動かない

 昨年2021年以降、半導体メーカー各社が、目がくらむような設備投資を行って、半導体工場の新増設を計画している。2022年の設備投資の予測値は、TSMCが440億米ドル、Samsung Electronicsが360億米ドル、Intelが280億米ドル、SK hynixが139億米ドル、Micron Technologyが115億米ドルなどとなっている(図4)。また、これに加えて、各国・各地域が、半導体製造を強化しようとして、多額の補助金を支出しようとしている。


図4:半導体メーカーの設備投資の動向(単位:億米ドル)[クリックで拡大] 出所:Andrea Lati, VLSI Research(Tech Insights), “Semiconductor Market Overview”,(SIAウエビナー, 2022年2月28日)のデータを参照に筆者作成(一部筆者予測)

 従って、今後、世界中で半導体工場の新増設が行われることになっている。そして、これらの半導体工場には、途轍もない台数のドライエッチング装置が導入されることになる。

 ところが、Lam Research、東京エレクトロン、Applied Materials、日立ハイテクなどがドライエッチング装置を製造し、世界に4〜5社あるチラーメーカーがチラーを供給しても、そのチラーに使われる冷媒の確保が極めて困難な状況である。つまり、半導体メーカーが工場を新増設し、それぞれの工場に数百台規模のドライエッチング装置と、それと同数以上のチラーを導入しても、冷媒を調達できなければエッチャーは動かないのである。そして、その可能性が極めて高いと言わざるを得ない。

 この難問は、どうしたら解決できるのだろうか?

ベルギー政府への陳情しか策は無い?

 もし、3Mおよびソルベイが、生産能力を増大させる設備投資を行って、それぞれ、ノベックおよびガルデンの供給量を倍増させることができれば、新増設する工場は(全てとは言わないが)稼働できるかもしれない。しかし、3Mおよびソルベイが、予算を確保して、プラントを建設し、冷媒を量産することを考えると、年単位の時間が必要になるだろう。従って、チラー用冷媒の逼迫をすぐに解消することはできないと思う。

 となると、残された手段は一つしか思い付かない。それは、半導体業界団体のSEMIや各国政府がベルギー政府に働きかけて、3Mのベルギー工場の稼働停止の解除を陳情することである。

 今回の騒動の背景には、ベルギーのフランダース地方政府による、環境査察の影響があるという。3Mのフロリナートなどのフッ素化合物は、その安定さから、自然界で分解されずに長くとどまり、物によっては生体に蓄積されていくという懸念が浮上し、今回の生産ライン停止につながったと聞いている。

 環境問題は確かに重要ではあるが、3Mのベルギー工場のPFAS生産ラインを突然停止した影響は、あまりにも甚大である。ベルギーのフランダース地方政府においては、代替製品の量産が立ち上がるまで、時間的な猶予を頂きたいと思う。つまり、3Mのベルギー工場のPFAS生産停止を一時的に解除していただけないだろうか? これについて、SEMIや各国政府からのベルギー政府への陳情に期待したい。

(次回に続く)

⇒連載「湯之上隆のナノフォーカス」記事一覧


筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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