半導体企業は台湾に拠点を置くべきか?:誘致団体の幹部に聞く(1/2 ページ)
エレクトロニクス業界の企業、特に半導体業界のエコシステム全体に関わる企業は、台湾に拠点を置くことで、具体的にどのようなメリットを得られるのだろうか。国内外の企業を台北に誘致する取り組みを進めるInvest Taipei Office(ITO)のエグゼクティブディレクターを務めるRobert Lo氏に聞いた。
台湾は世界トップの半導体製造企業の本拠地としてよく知られているため、エレクトロニクス産業が台湾への外国直接投資(FDI)の最大分野であることは驚くにあたらない。英国の調査会社であるGlobalDataによると、エレクトロニクス分野は、台湾の2019〜2020年のグリーンフィールドFDIプロジェクトのうち約16%を占め、他のどの分野よりも多いという。
筆者は2019年に訪問した際に、独自の強みとエレクトロニクス技術基盤を構築するという台湾の野望を初めて知った。滞在中に台湾科学技術局部(MOST)と対談し、研究や産業、スタートアップ、アクセラレーター、政府系組織を代表するエレクトロニクスエコシステムの主要プレイヤー数社とも会談した。対談した人々は、複数の分野で台湾がいかに進歩しているかを熱心に強調していた。
2021年9月に、台湾の宇宙学者で当時MOSTの英国事務所のディレクターを務めていたJiun-Huei Proty Wu氏と対談したところ、台湾が英国・ロンドン最大規模の技術会議「London Tech Week」に代表団を送って、技術系スタートアップに対し台湾に事業所を設立するよう熱心に勧めていたことが分かった。それを裏付けるかのように、同じく英国と台湾の技術企業間の交流に携わる英国Cascodaを、台湾の製品を活用しているスタートアップの一例として紹介していた。
では、エレクトロニクス業界の企業、特に半導体業界のエコシステム全体に関わる企業は、台湾に拠点を置くことで、具体的にどのようなメリットを得られるのだろうか。台湾には世界最大の半導体専業ファウンドリーがあるかもしれないが、企業は必ずしも台湾にオフィスや研究センターを設置する必要はないように思える。
米国EE Timesは、企業が台湾に拠点を置くことを検討する理由について理解を深めるためのインタビューの一環として、国内外の企業を台北に誘致する取り組みを進めるInvest Taipei Office(ITO)のエグゼクティブディレクターを務めるRobert Lo氏にこの質問を投げかけた。
同氏は次のように答えている。「過去20年間、半導体製造は台湾や韓国など、アジアに集中していた。台湾のエレクトロニクス産業、特に半導体エコシステムは、かなり統合された分業体制になっている。台湾の専門的な分業体制は、現在のグローバルな技術分野において極めて重要な役割を果たしている。これによって、多くの外資系半導体企業を誘致して法人を設立し、台湾企業と協力して台湾の半導体エコシステムに統合してきた」
さらに、「日本とドイツの半導体企業は、サプライチェーンにおいて主要な半導体材料と化学ガスを統制していて、研究開発(R&D)も主に自国(日本およびドイツ)で行っている。一方で、ファウンドリーの重要なプロセスには薄膜、露出、エッチングなどが含まれることから、両国は台湾で自社の生産やR&D拠点を拡大しつつある。これにより、新しい技術の導入や改善、半導体材料の持続的な確保を進めているのだ」と続けた。
ロシアによるウクライナ侵攻の影響
TSMCをはじめとする台湾の半導体メーカーは、半導体向けの主要材料の品質を高めるため、新技術を採用し続けている。それにより、日本とドイツの材料メーカーは、台湾での生産拡大や、自社の競争力を拡大するためのTSMCとの協業に駆り立てられている。日本やドイツの材料/化学メーカーが供給する半導体向けガス、レーザー、エッチングガス用の原材料は、主にウクライナとロシアから調達されている。そのため、ウクライナとロシアの間で勃発した危機により、原材料の供給は急激に下落する見込みだ。
だが、2014年のクリミア危機以降、台湾は材料/化学の国際的なサプライチェーンの上流をターゲットにすることで、状況に応じた調整を行うようになった。EUの重要な国々も台湾で生産を拡大しており、レジリエンスな調整ができる計画を立てている。従って、日本とドイツの半導体材料メーカーは、ウクライナとロシア間の緊張という地政学的な危機に際し、リスクを分散させようと台湾での生産能力やR&D拠点を配備する計画を加速した。
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