半導体企業は台湾に拠点を置くべきか?:誘致団体の幹部に聞く(2/2 ページ)
エレクトロニクス業界の企業、特に半導体業界のエコシステム全体に関わる企業は、台湾に拠点を置くことで、具体的にどのようなメリットを得られるのだろうか。国内外の企業を台北に誘致する取り組みを進めるInvest Taipei Office(ITO)のエグゼクティブディレクターを務めるRobert Lo氏に聞いた。
サプライチェーンの見直しが進む
日本、EU、米国は、現在のサプライチェーンにおける材料不足と、地域製造というトレンドを踏まえて、独立した半導体製造サプライチェーンの構築を加速させている。日本の主要な半導体材料メーカーは、韓国ならびに台湾での生産拡大やR&D拠点の構築を徐々に進めることで、Samsungのハイエンドメモリ製造やTSMCの高度なファウンドリープロセスに近づこうとしている。
台湾は比較的オープンな性質を持っている。日本やドイツ、フランスの主要な材料/化学メーカーが半導体向けの材料技術を開発する場合、TSMCとの提携が不可欠である。そのため、近い将来、台湾で生産を拡大したり、法人を設立したりする材料、機器、化学メーカーは増えるだろう。関連する人材を台湾に呼び込むことにもつながる。
台湾の半導体業界の上流であるシリコンウエハーは、8インチや12インチの需要が根強いかどうかにかかわらず、2022年以降供給不足が見込まれており、価格は高騰し続ける可能性がある。
また、5G(第5世代移動通信)、AI(人工知能)、メタバースなど、半導体チップの需要をけん引する業界動向を受け、台湾の半導体市場もより力強く成長している。台湾政府は、電子産業および半導体産業における国内の技術支援を長年にわたり支援し、創造的なチップ設計エコシステムを生み出し、チップサービスの高いカスタマイズ性を実現し、顧客にとっての設計の敷居を低くしてきた。「TSMC Design Center Alliance」のような、高い水準のアライアンスやパートナーも存在し、安定した歩留まり、成熟した技術エンジニアリング環境、優秀で効率的な研究開発人材と相まって、国際企業のコストを大幅に削減し、障壁を克服し、はるかに高い収益を生み出すことができる。
現在、多くのIC設計企業が世界的な産業サプライチェーンの混乱と再編に直面しているため、台湾に拠点を設立して半導体製造エコシステムと統合し、パートナーと協力してチップを製造し、台湾から他国へ販売できるようにしたいと考えているのだ。
では、台湾に拠点を置きたい外国企業はどのようなサポートを受けられるのだろうか。
――台北で強い、エレクトロニクス垂直統合産業サブセクターの概要を教えてください。
Robert Lo氏 最も重要な研究開発拠点は、ほとんどが台北市内にあり、高い付加価値を持つ製品の開発に重点を置いている。「Neihu Science Park」や「Nangang Software Park」「Nangang Bioinnovation Park」では、積極的に研究開発を行えるよう、多くの国内外の企業のR&Dセンターの誘致に力を入れている。また、台北市は企業の製品開発のために、さまざまなスマート検証分野を提供している。
台北市の周辺に位置する新北市、基隆市、桃園市、新竹市などでも、工場が建設され、電子機器の主要部品が製造されている。エレクトロニクスの垂直統合型サプライチェーンが構築されており、企業は設計からR&D、製造、市場検証に至るバリューチェーン全体を、連携して強化できるようになっている。
NVIDIAやIntel、Arm、Micron Technologyといった大手半導体メーカーは、台北市内に拠点を置き、台北行政区外に生産チームや開発センターを設けている。各サイエンスパーク(「新竹サイエンスパーク」や「台南サイエンスパーク」)では、半仕上げ製品を1日以内に納品できるティア1やティア2のサプライヤーが豊富にあり、ローカルサプライチェーンを構築することが可能である。
――外資系企業にとって、台北での拠点設立を検討する主な理由は何でしょうか。
Lo氏 完全な産業クラスターであることや、台北には優秀な人材がいること、より大きなアジア市場を目指せることなどが挙げられる。
台北市は産業クラスターの中心地として、新北、基隆、桃園、新竹、台中を結び、エレクトロニクス関連産業の統合バリューチェーンを形成する都市となっている。
台北市からは、東京、ソウル、シンガポール、香港などアジアの重要都市へ数時間でアクセスできるので、アジア市場への進出が非常に容易になる。また、特定の領域でパイロットプロジェクトを実施し、市場にてテストすることで、ビジネスモデルや製品を調整および改良することも可能だ。
人材面で言うと、台北市には中央研究院をはじめとする学術研究機関や、29の公立、私立大学が設立されている。また、バリューチェーンを形成する周辺地域にも一流大学が数多く存在する。台北の労働人口の60%は第3期の教育を受けている。その結果、Google、Facebook、Amazon、Microsoft、Intelなどの国際的な企業が台湾に進出し、こうした人材を活用するとともに、地元の産業エコシステムの成長を支援している。
――国際的な半導体メーカーが台北に拠点を置くに当たり、ITOはどのような支援を行っているのでしょうか。
Lo氏 世界市場の重要な課題は、パンデミックおよび、パンデミックによる工場閉鎖などが原因となり発生した需給のアンバランスだ。特に後者は、需給の偏りの度合いを悪化させ、世界のサプライチェーンに変化さえもたらした。その結果、台湾では半導体産業が急速に発展して繁栄を続け、生産能力が増大し、その結果、関連する材料や機器の需要も増加している。
ITOの役割は、政府の投資誘致機関として、海外からの投資を積極的に促進し、革新的な技術、ビジネスモデル、ソリューションを持つ企業をスカウトし、台湾およびアジア市場の開拓を支援することだ。さらに、企業が人的リソースを活用し、学術研究機関との協業を推進することで、アジア市場への進出のスピードを加速させ、参入や進出の障壁を克服できるようサポートする。
2022年には、半導体に加えて5Gや電気自動車などの新しい分野も、台北市の産業発展の重要な柱になるだろう。ITOは、これらの分野における革新的な企業からの投資を積極的に誘致し、地元の産業エコシステムと連携して支援する。政府は台湾最大の5G/AIoT(artificial intelligence of things)テストフィールドを建設したので、ITOは国際企業が台北で概念実証を行い、国際認証を取得する際にも支援できる。
【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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