『ナノ材料強化型』EV用バッテリーが作る未来:実用化に向け開発が加速(1/2 ページ)
電気自動車(EV)は長年にわたり、消費者にとってかなり高額な製品だったが、今や手の届く価格になりつつある。それでも、EV用バッテリーにはまだ多くの改善すべき点があり、充電時間や走行距離などの課題が残されている。自動車メーカーは現在、EV用バッテリーの能力を最大限に引き出すべく、ナノ材料を使用する方向へと進んでいるところだ。
電気自動車(EV)は長年にわたり、消費者にとってかなり高額な製品だったが、今や手の届く価格になりつつある。それでも、EV用バッテリーにはまだ多くの改善すべき点があり、充電時間や走行距離などの課題が残されている。自動車メーカーは現在、EV用バッテリーの能力を最大限に引き出すべく、ナノ材料を使用する方向へと進んでいるところだ。
最近ではMercedesが、同社のEV SUVシリーズの一部において、ナノ材料を用いたEV用バッテリーを搭載する予定であることを発表している。
ナノ材料への高まる関心
EV市場は長年にわたり、さまざま問題に直面してきた。例えば、充電が遅いことや、走行距離が短いこと、バッテリーが大き過ぎて商用化が難しいことなどが挙げられる。ここ何年もの間、EV用バッテリー向けのナノ材料に対する関心が高まってきているが、その背景には、バッテリーを小型化できるだけでなく、一部のナノ材料の優れた伝導特性やキャリア特性を利用することができるといった点がある。
現在注目を集めている導電性ナノ材料の中には、EV向けに秘められたその潜在能力が、例えば迅速に電荷を蓄積可能なスーパーキャパシター(電気二重層キャパシター)のような、他の用途向けにも適用可能であることが明らかになっているものもある。このようなナノ材料の特性をうまく利用して商用化を実現するにはかなりの時間がかかったが、現在、「ナノ材料を利用したバッテリーを搭載する自動車が、公道を走行できるようになる日は近い」という段階に来ているのではないだろうか。
中国が世界初となる商用化を実現
EV用バッテリー市場において初となる重要な開発を実現したのは、中国のGAC Groupだ。同社は長年のテストを経て、2022年末に同社の新型EV「Aion V」にグラフェンバッテリーを搭載する予定であると発表した。これにより、ナノ材料を使用したバッテリーという、重要な製品開発が実現することになる。中国はもともとグラフェンに多大な関心を持っていたため、中国が世界初となるナノ材料適用製品の実用化を達成したことについては、それほど驚くことではないだろう。
ただ、自動車市場においてグラフェンに関する重要な発表が行われたのは、これが初めてではない。Fordが数年前に、同社の「F-150」と「Mustang」モデルでグラフェンを使用することを発表している。しかしこの時は、自動車のエレクトロニクス分野ではなく、複合材料や構造面に焦点が当てられていた。
グラフェンをより構造的な用途に応用できるよう複合材料に組み込むことは容易になってきたが、エレクトロニクスシステムで採用することはまだ難しいという状況にある。そのため、このようなバッテリーの開発は、グラフェンエレクトロニクスの開発においても非常に重要だといえる。
Aion Vは、業界初のグラフェンバッテリー搭載EV(アノード材として、グラフェンではなくグラファイトを使用)となるが、テスト結果によると、わずか8分間で0〜80%の充電を完了し、走行距離1000kmを実現できるということが明らかになった。グラフェンはこのように、現状の課題に対応可能な潜在能力を秘めているが、実世界においてその充電性能や走行範囲が評価されるようになるのは、まだ2022年末頃まで待たなければならないだろう。それでも、ナノ材料によって強化されたEV用バッテリーの幅広い導入実現に向け、扉が開かれたといえる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.