数百量子ビット集積の処理装置、5年以内に実現目指す:InfineonとOxford Ionicsが協業(1/2 ページ)
Oxford IonicsとInfineon Technologies(以下、Infineon)は、完全に統合された量子処理ユニット(QPU:Quantum Processing Units)の開発に向けてパートナーシップを構築した。Oxford Ionicsが開発した電子量子ビット制御(EQC)技術と、Infineonのイオントラップ技術とエンジニアリング、製造、組み立て能力を組み合わせることで、5年以内に数百量子ビットを集積したQPUの商用生産を実現するとしている。
5年以内に数百量子ビットを集積したQPUの商用生産実現へ
処理能力の劇的な向上が求められるに分野にとって、量子コンピューティングは演算能力の新たなフロンティアを切り開く技術である。実現するには、非常にスケーラブルな量子ビット技術を開発する必要がある。さらに、量子ビットの増加量を制御し、測定に影響を与えないようにエラーレベルを可能な限り低く抑える必要がある。
Oxford IonicsとInfineon Technologies(以下、Infineon)は、完全に統合された量子処理ユニット(QPU:Quantum Processing Units)の開発に向けてパートナーシップを構築した。Oxford Ionicsが開発した電子量子ビット制御(EQC)技術と、Infineonのイオントラップ技術とエンジニアリング、製造、組み立て能力を組み合わせることで、5年以内に数百量子ビットを集積したQPUの商用生産を実現するとしている。
両社は、量子コンピューティング技術を研究レベルから有用な産業用アプリケーションに転換することを目指している。
スケーラビリティの実現が課題
量子コンピュータの構築における大きな課題の一つは、完全に統合可能で、スケーラブルに製造できる量子プロセッサの構築方法を発見することだ。通常、イオントラップ量子ビットは、入念に調整された光学アセンブリによって供給される個々のレーザービームで制御する。ただし、量子ビットの数が増えると、途端にこの方法では対応できなくなる。次世代チップを導入すれば、量子ビットの数が数千、さらには数百万に達し、量子コンピュータの実行可能性の達成において大きな障壁の一つとなっている量子プロセッサの複雑さが軽減されることで、量子コンピュータのスケーラビリティが向上する。
イオントラップ量子コンピュータは、単一原子を使用して量子ビットを実装する。規定の材料からできたこの原子は、イオン化によって正味の正電荷を有しているため、クーロン相互作用によって互いに作用することができる。これにより、量子ビットのもつれを促進する2量子ビットゲートの実現が容易になる。原子を特定の場所に閉じ込める電磁場によって、原子はハードウェア内に格子構造で配置される。量子ゲートは、電子との相互作用によって状態を変えることができるレーザー放射を使用して作られる。
Oxford Ionicsの共同創設者であるChris Ballance氏は、「主な課題は、チップスケールで完全に統合できる量子ビットの制御方法を見つけることだ」と説明する。「イオントラップ量子コンピュータは、チップの表面から数十ミクロン上にトラップされた原子イオン(量子ビット)の量子状態を操作することで動作する。これらの量子ビットは従来、レーザーを使用して制御されていたが、チップスケールでの統合が難しいため、量子計算の固有誤差につながる可能性がある。Oxford Ionicsが特許を取得した電子量子ビット制御技術は、レーザーを組み込む代わりに、チップ内の集積構造に流れる電子電流を利用して量子ビットを制御する方法を採っている」(同氏)
Infineonのパワーシステム&ソリューション部門で新アプリケーションおよび量子コンピューティングのディレクターを務めるStephan Schaecher氏は、「複雑さに対処し、改善されたトラップ特性を維持しながら、制御電子と光学系の統合に取り組んでいく。この他にも、さまざまなプロジェクトにおいて、ゲートの高速化や、オンチップとオフチップの接続性の向上、プロセッサアーキテクチャの全般的な向上といった課題にも取り組んでいる」と述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.