世界初のICレコーダーを襲った悲劇(1994年):福田昭のストレージ通信(229) フラッシュメモリと不揮発性メモリの歴史年表(10)(1/2 ページ)
1994年の出来事をご紹介する。フラッシュメモリを内蔵する携帯型デジタル音声レコーダーが発表された年だが、この音声レコーダーには意外なエピソードがあった。【訂正あり】
検索エンジンではICレコーダーの発明者が見つからない
フラッシュメモリに関する世界最大のイベント「フラッシュメモリサミット(FMS:Flash Memory Summit)」の会場では最近、「Flash Memory Timeline」の名称でフラッシュメモリと不揮発性メモリの歴史年表を壁にパネルとして掲げていた。FMSの公式サイトからはPDF形式の年表をダウンロードできる(ダウンロードサイト)。
この年表は1952年〜2022年までの、フラッシュメモリと不揮発性メモリに関する主な出来事を記述している。本シリーズではこの歴史年表を参考に、主な出来事の概略を説明している。原文の年表は全て英文なので、これを和文に翻訳するとともに、参考となりそうな情報を追加した。また年表の全ての出来事を網羅しているわけではないので、ご了承されたい。なお文中の人物名は敬称略、所属や役職などは当時のものである。
前回は、1993年〜1995年の主な出来事を説明した。インテルが開発したNORフラッシュメモリの記憶容量はわずか3年で16倍に急拡大し、1993年には32Mビットに達した。フラッシュ応用品では小型カード「CompactFlash(コンパクトフラッシュ)」をサンディスクが1994年に開発し、共通規格の策定団体「CFA(CompactFlash Association)」が1995年に発足した。
上記の年表で目を引いたのは1994年の出来事だ。「フラッシュメモリを内蔵する携帯型デジタル音声レコーダー「Flashback」(フラッシュバック)をノリスコミュニケーションズ(Norris Communications)が発表した」とある。フラッシュメモリを内蔵する携帯型の音声録音再生装置は、一般的には「ICレコーダー」「音声レコーダー」「ボイスレコーダー」の名称で現在でも使われている。日本ではオリンパスやソニーなどのICレコーダーが現在は有名だ。
筆者は寡聞にして「ノリスコミュニケーションズ」という企業を知らなかった。そこでICレコーダーのルーツを確認すべく、Google検索エンジンで「ICレコーダー」と「ボイスレコーダー」を検索キーとして調べたものの、発明者の情報が見つからなかった。続いて、製品名「Flashback」と企業名「Norris Communications」を手掛かりに取材を進めたところ、いくつかの意外な事実が判明した。以下はその概要を述べたい。
ICレコーダーの基本的な機能をほぼ全て装備
まず判明したのは、世界初のICレコーダー開発企業は「Norris Communications Corp.(以降はNCCと表記)」であり、最初のICレコーダー製品は「Flashback」で間違いなさそうだということだ。「Flashback」は18分間、あるいは36分間の音声を録音し、再生する機能を備えている。電源は単3形乾電池2本(2AA)。本体重量は2.6オンス(約74グラム)。外形寸法は不明だが、製品写真からは成人男性の手のひらに収まる大きさにみえる。
【訂正:2022年8月29日16時10分 当初、企業名を「Norris Communications, Inc.」としておりましたが、正しくは「Norris Communications Corp.」です。これに伴い、略称も「NCI」から「NCC」に訂正しております。読者の皆さまにご迷惑をおかけし、お詫び申し上げます。】
「Flashback」はICレコーダーとしての基本的な機能を全て備えていた。マイクとスピーカー、さらにはヘッドフォンジャックを搭載しており、2個のボタンによって録音と再生の開始や停止、再生の早送りと早戻りなどを実行できた。
画期的だったのは、録音用フラッシュメモリを「SoundClip」(サウンドクリップ)と呼ぶ取り外し可能なユニットに収納したことだろう。「SoundClip」を交換することでカセットテープレコーダーのカセット交換のように録音時間を延長したり、録音データを保管したりできた。発売当初はPCにデータをダウンロードする機能を持たなかったため、「取り外し可能なフラッシュメモリ」という機能は必須だったとも言える。
「Flashback」の価格は36分間の録音が可能なバージョンが249.55米ドル、交換用「SoundClip」の価格は36分間の録音可能バージョンが89.95米ドルである。「SoundClip」が2個あれば、原理的には72分間の会議を記録できる。
また将来計画として、PCにダウンロードする機能を追加することが考えられていた。「SoundClip」と本体はPCMCIAインタフェースによって接続してある。PCにソフトウェアをインストールすれば、「SoundClip」のデータをPCMCIA経由でPCに転送できる。1995年2月に開催されたPC関連の展示会(Demo ‘95)でNCCは、「SoundClip Extender and Software for Windows」と呼ぶPCでFlashback本体をエミュレートするシステムを出品していた(実際に製品化されたかは不明、参考記事はこちら)。
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