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「ゲノムデータ解析を5分で」、日本の新興企業が挑む超並列演算チップを開発(2/3 ページ)

生物が持つ遺伝情報を総合的に解析する「ゲノム解析」。ここ数年は、新型コロナウイルスの変異特定などにも用いられ、ニュースでも「ゲノム解析」という言葉をよく聞くようになった。今、そのゲノム解析の分野で、日本のスタートアップがイノベーションを起こそうとしている。2020年7月に設立された、Mitate Zepto Technicaだ。

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ボトルネックはデータ解析

 ゲノム解析は、ゲノムの抽出、データ解析という大きく2つの段階に分けられる。実は、抽出は5分で完了する。最も時間を要するのがデータ解析で、1人分のゲノムを解析するのに、高速な既存装置でも約50分かかる。そのため、「1日に10人分を解析するのが限界だ」と橋本氏は述べる。これでは、病院や施設でゲノム解析装置の導入がなかなか進まないのも当然のことだ。橋本氏は「データ解析のボトルネックを解消するというのが、今後のゲノム解析が進むポイントになる」と強調する。


ゲノム解析は、データ解析に最も時間がかかる[クリックで拡大] 出所:Mitate Zepto Technica

ゲノム解析の時間とコストを10分の1にする「超並列演算アクセラレーター」

 Mitate Zepto Technicaはアクセラレーターを開発することで、1人分のゲノムデータ解析にかかる時間を50分から5分に、システム導入費用を2000万円から200万円に下げようとしている。1日に処理可能な被験者数を100人まで引き上げることが目標だ。


Mitate Zepto Technicaは、ゲノムデータ解析の時間とコスト(システム導入費用)を現在の10分の1に引き下げることを目標としている[クリックで拡大] 出所:Mitate Zepto Technica

 同社が開発するのは、ゲノム解析の演算に特化したLSIを搭載したアクセラレーターボードだ。具体的には、独自開発のLSI(プロセッサ)「Rasen(レーゼン)」を16基搭載したPCIe(PCI Express)対応アクセラレーターボード(以下、Rasenアクセラレーターとする)である。Rasenは、ゲノムデータ処理回路を512コア搭載し、超並列で高速演算を行う。ゲノムデータ解析用アクセラレーターボードで現在の主流となっている米illuminaの製品にはFPGAが搭載されているが、それに比べて、大幅に高速な演算が可能になる。プロセスにはTSMCの28nmを用いていて、消費電力とチップ単価を抑えることができるとする。

左=「Rasen」および「Rasenアクセラレーター」の主な仕様/右=現在、ゲノムデータ解析用アクセラレーターボードのデファクトスタンダードとなっている米illumina製品との比較[クリックで拡大] 出所:Mitate Zepto Technica

 橋本氏は、「Rasenアクセラレーターをシーケンサーに搭載することで、抽出と解析まで1台で行えるようにしたり、汎用ワークステーションに搭載し、スパコンではなく汎用ワークステーションでも解析できるようにしたりすることが目標だ」と述べる。「シーケンサーは保有しているが、解析はできないので外部に依頼しているという医療機関もある。DNAの抽出と解析を同じ施設/病院で、その場で完了できるようにするのが、われわれのゴールだ。当社が開発しているのはアクセラレーターのみだが、これが実用化されることで、ゲノム解析市場は大きく様変わりするとみている」(同氏)


Mitate Zepto TechnicaのRasenアクセラレーターを使うことで、シーケンサーにデータ解析機能を追加したり、スパコンではなく汎用ワークステーションでもゲノムデータ解析ができるようにしたり、といったことが可能になる[クリックで拡大] 出所:Mitate Zepto Technica

 想定する顧客は、まずはシーケンサーメーカーだ。さらに、シーケンサーを既に保有している医療メーカーや創薬メーカー、B2C(Business to Consumer)の遺伝子解析サービスを提供している企業などもターゲットである。「メインのターゲットはilluminaだ。Mitate Zepto Technicaにとってilluminaは、潜在顧客でもあり、ライバルでもある。ゲノムデータ解析向けアクセラレーターの世界で、われわれはジャイアントキリングを狙う」(橋本氏)

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