老後を生き残る「戦略としての信仰」は存在するのか:「お金に愛されないエンジニア」のための新行動論(6)(7/12 ページ)
今回は、「老後を生き残る「戦略としての信仰」」をテーゼに掲げて検討していきます。宗教は果たして私を幸せにしてくれるのか――。それを考えるべく、「江端教」なる架空の宗教団体をベースに話を進めます。
「霊感商法」
さて、最後にカルト宗教団体のビジネスモデルである「霊感商法」に関してお話したいと思います。
以下の説明は、WikiPediaの丸パクリです。
霊感商法とは、霊感があるかのように振る舞って、先祖の因縁や霊のたたり、悪いカルマがあるなどの話を用いて不安を煽(あお)り、印鑑・数珠・多宝塔などを法外な値段で商品を売ったり、不当に高額な金銭などを取る商法のことで、悪徳商法の一種です。
人の不幸を巧妙に聞き出し、霊能者を装った売り手が、その不幸を先祖のたたりなどの因縁話で説明する。そして「この商品を買えば祖先のたたりは消滅する」と効能を訴えたり、「このままだともっと悪いことが起きる」などと不安を煽り、相手の弱みにつけこんで、法外な値段で商品を売りつけます。
扱われる商品としては、主に壺や多宝塔の美術品を始め、印鑑、数珠(念珠)、表札、水晶などがあります。
しかし、どのカルト宗教団体も、一貫して「霊感商法」を否定しています。当然です。彼らは、「霊感商法」などという、いかがわしいことは一切やっているつもりはないからです。
彼らがやっていることは、「原罪を持つ人類への、崇高なる救済活動」なのです。
上記のように、「私たちの見え方」と「カルト宗教団体の信者の見え方」は全く違うのです ―― 真逆です。私たちは、霊感商法をしかけるカルト宗教団体の信者を人間のクズや悪魔のように見なしますし、他方、カルト宗教団体の信者たちは、私たちを「生まれながらのサタン(=肉体的”原罪”を負う者)」と決めつけているのです。
カルト宗教団体の信者たちは、通常の人間には絶対に実施不可能な、「サタン!去ね!」という奇跡サービスを実施しているのに、なぜ世間様から責められなければならないのかが、分かりません。
しかし、『本当に分からないのか? 嘘だろ? 分かるだろう、そのくらいのこと』と ―― どの時代のどの世界であっても、その時代に応じた社会通念があり、その時代と世界において、逸脱してはならない一線があります。
少なくとも、現在のわが国においては、子どもや伴侶に先立たれた人間に、『地獄で苦しんでいる』などと言っていいような社会常識は存在しないし、自己破産の概念もないような人間からの寄付があれば、それを止(とど)めるのが人間としてのモラルです ―― そんなことは、難しい経典を読み込んで、必死に勉強しなくても、自分の頭だけで簡単にたどりつくことができるはずです。
なぜ、それができないのか? 自分の頭だけでたどりつける思考回路が、他人によって破壊されているからです。それを、一般的に「洗脳」と言いますし、もし壊されていないのに実施しているのであれば、それは「思考放棄」という自己否定です ―― が、そんなことを言ってみたところで、詮無い(せんない)ことも、私は分かっています。
なぜなら、宗教の完成形は、信者の「洗脳」であり「思考放棄」だからです。
最後に、私なりの、カルト宗教団体のまとめをしてみたいと思います。
冒頭で、私は、カルトを次のように定義しました。
(1)反社会的、違法、または、社会通念上の常識に著しく反する信条を持ち、
(2)上記(1)を信仰という手段で実施する団体(宗教団体)、またはその構成員(信者)
聖書の内容を踏みにじることや、”原罪”論の拡張は、信条の自由ですし、聖書の二次創作ですので、問題ありません*)。
*)信者にとっては、異教徒として殺りくしたい気持ちになるくらいの問題かもしれませんが。
自由恋愛結婚を否定する「共同結婚式」、ほとんど近親婚となり遺伝的に危険な「クローズドコミュニティー内での結婚の繰り返し」、または「一夫多妻」「一妻多夫」などは、近代社会通念上の常識に反すると言えるかもしれませんが、これも、ぶっちゃければ「個人の勝手」です。
そもそも、カルトであろうがなかろうが、いかなる宗教団体への入会も、信教の自由(憲法第20条)で認めている国民の基本的権利です。
しかし、心理的恐喝による法外な値段の物品セールスや、自己破産を看過する寄付などの「霊感商法」は、明らかに非人道的かつ反社会的です。そして、現時点においては、違法行為になっています(平成30年、消費者契約法第4条3項6号)。
3 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる
六 当該消費者に対し、(A)霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、そのままでは当該消費者に(B)重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり、当該消費者契約を締結することにより(C)確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること。
というか、この法律は、かつてのカルト宗教団体が引き起した大量の金銭トラブル事件によって、制定されたものです。
この法律が制定された平成30年とは、2018年、つまりたったの4年前です。私がこの問題を知っていたのは1985年くらいですから、私の知る限り、この霊感商法は、最低でも33年間は放置され続けていた、ということです(宗教法人の認可を受けた1964年から起算すると、54年間にもなります)。
しかし、上記の法令を深く読んでみると分かるのですが、「(A)自分は霊が見える」といい、「(B)不安をあおり」「(C)『不利益を回避できる』旨を告げる」という、3要件がそろわなければ、霊感商法の契約取消(返金等)は成立しないのです。
つまり、「自分の意思で自分名義の財産のカルト宗教団体に寄付をする」、ということについては、この法律(第6号)は発動しないのです。その結果、自己破産しようが、家庭崩壊しようが、それは自己責任となり、カルト宗教団体には、法律上の返金の義務は発生しません。
加齢や病気による判断力が低下していることを知りながら、「生活が難しくなりますよ」と不安につけこむようなやり方であれば、消費者契約法第4条3項5号の適用がありえますが、高齢でも病気でもなく通常の生活ができている人には、これも通用しません。
総括します。
―― カルト宗教団体の運営は、(自分の全財産を自分の意思で差し出せるような)狂信的な信者を”作り出せる”か否かにかかっている
と、いうことです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.