コロナ特需の終焉 〜その兆候は2021年7月に現れていた:湯之上隆のナノフォーカス(54)(1/5 ページ)
半導体業界の減速が明らかになった。だが、その兆しは既に1年以上も前に現れていたのだ。本稿では、市場分析を丁寧に見直し、その「予兆」について分析する他、「シリコンサイクル」の新しい考え方を提案する。
イケイケ・ドンドンに急ブレーキ
2021年の世界半導体出荷額および出荷個数は、いずれも、過去最高の5530億米ドルおよび1兆2021億個を記録した(図1)。そして、ことし2022年も当初は、出荷額も出荷個数も、過去最高を記録する…はずだったのだが、中旬頃から雲行きが怪しくなり、後半から来年2023年にかけて、半導体不況に突入するのはもはや避けられない事態になったようだ。
その様子を確かめるために、世界半導体市場の四半期毎の出荷額と出荷個数をグラフにしてみた(図2)。すると、確かにどちらもピークアウトしていた。ここで、一体いつピークアウトしたのかを明らかにするために、2015年第1四半期(Q1)〜2022年Q2までのグラフを書いてみた(図3)。
これを見て、筆者は、「ん?」とうなってしまった。
というのは、出荷個数は2021年Q3に2940億個で、出荷額は2021年Q4に1526億米ドルで、それぞれ、ピークアウトしているからだ。つまり、「イケイケ・ドンドン」が続いていると思い込んでいた昨年2021年の後半に、既に半導体市況は変曲点を迎えていたことになる(なお、出荷個数が先にピークアウトしている不思議な現象については最後に取り上げる)。
しかし、昨年後半に「これから不況がくるぞ」と警告した記事を見かけたことは無い。また、筆者も「2021年中に不況がくる」とは露(つゆ)ほども考えてはいなかった。ところが、その兆候は、明らかに、昨年後半に現れていたのである(何で気が付かなかったのかと悔やまれる)。
本稿の目的と概要−「新しいシリコンサイクル」の発見
そこで本稿では、より定量的に、昨年2021年に半導体市場に急ブレーキがかかっていたことを明らかにする。具体的には半導体出荷額や出荷個数の3カ月移動平均の対前年同期比の成長率(以下、成長率)を算出し、グラフ化することにより、2021年中旬に変曲点があることを示す。
なお、半導体出荷額の成長率は、3〜5年周期で上下動することから、世の中では「シリコンサイクル」と呼ばれている。
次に、Mos Micro、Mos Memory、Logic、Analogの4種類の半導体について、四半期ごとの出荷額と出荷個数を分析し、これら4種類の半導体の成長率もグラフ化してみる。
以上の結果から、確かに2021年中旬に変曲点があったこと、そしてその変曲点は、出荷額よりも出荷個数の方にいち早くその兆候が現れていること等を明らかにする。
最終結論を述べると、2021年は「コロナ特需」の1年だったと言える。しかし、その特需は2021年7月にピークアウトし、終焉を迎えた。また、今までシリコンサイクルは出荷額の成長率で示されてきたが、出荷個数の成長率の方に、いち早く不況の兆候が現れることを発見した。
従って今後は、「新しいシリコンサイクル」として、出荷個数の成長率を観察するべきであることを指摘したい。
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