コロナ特需の終焉 〜その兆候は2021年7月に現れていた:湯之上隆のナノフォーカス(54)(3/5 ページ)
半導体業界の減速が明らかになった。だが、その兆しは既に1年以上も前に現れていたのだ。本稿では、市場分析を丁寧に見直し、その「予兆」について分析する他、「シリコンサイクル」の新しい考え方を提案する。
新しいシリコンサイクルの発見
冒頭の図3で、世界半導体市場において、出荷個数は2021年Q3に、出荷額は2021年Q4に、おのおのピークアウトしていると記載した。繰り返すが、出荷額より先に、出荷個数がピークアウトするのは、とても不思議な現象のように感じた。
そこで、出荷額だけでなく、出荷個数においても、3カ月移動平均の対前年同期比の成長率を算出した。そして、出荷額の成長率と出荷個数の成長率を同一のグラフに書いてみた(図7)。
両者の上下動の挙動は、かなり似通っている。例えば、リーマン・ショックによる落ち込みとその回復は、二つのグラフがほぼ一致している。
しかし、異なるケースもいくつかある。例えば、メモリバブル時においては、出荷個数の成長率の方が出荷額の成長率より先に下落しているように見える。
そして、今回の「コロナ特需」においては、両者の違いがより鮮明に現れている。出荷個数の成長率が2021年7月から下落しているのに対して、出荷額の成長率は同年10月から下落しているのである。その差が3カ月もある。
つまり、出荷個数の方が出荷額より先にピークアウトしているだけでなく、その成長率においても、出荷個数の方が出荷額より先に下落に転じている。このメカニズムの解明はなかなか難しいので後述するが、ここで明言できることは、半導体不況の兆候は出荷額より出荷個数の方に先に現れるケースがあること、加えてその成長率についても、出荷個数の方が出荷額より先に不況の兆しが現れる場合があるということである。
今まで、「シリコンサイクル」は出荷額の成長率で示されてきた。しかし、今回、出荷個数の成長率の方がいち早く不況の兆候を捉えることができることが分かった。要するに、「新しいシリコンサイクル」の存在を見つけたということだ。
以下では、Mos Micro、Mos Memory、Logic、Analogの4種類の半導体について、出荷額と出荷個数および、その成長率について、詳細に分析してみることにする。
種類別半導体の四半期ごとの出荷額
図8に、1991年〜2022年Q2までの種類別半導体の四半期毎の出荷額を示す。DRAMとNAND型フラッシュメモリがほとんどを占めるMos Memoryは、2021年後半に「ポキッ」と折れるかのごとくピークアウトしている。プロセッサやマイコンが含まれるMos Microは、Mos Memoryほど顕著ではないが低下しているように見える。一方、LogicとAnalogは、成長を続けている。
ここで、コロナ禍での挙動を把握するために、2015年Q1〜2022年Q2までをクローズアップしたグラフを書いてみた(図9)。
最も激しく上下動をしているのがMos Memoryである。2016年から始まったメモリバブル時に急拡大し、2018年Q3にピークアウトして大きく下落する。その下落は2019年Q2で底を打ち、回復していく途中の2020年にコロナ騒動が起きて、同年Q4に下落する。そこから、「コロナ特需」の追い風に乗って急成長していたが、2021年Q3にピークアウトしてしまった。
Mos Microには、Mos Memoryのような激しい上下動は無いが、2020年Q3以降、緩やかに増大している途中の2021年Q4にピークアウトしているように見える。
一方、LogicとAnalogは、2020年Q2以降、「コロナ特需」の恩恵により、急拡大していき、「コロナ特需」が終焉したはずの2022年Q2に至っても、ピークアウトする気配はない。
では、これら4種類の半導体の出荷個数について、さらに詳しく見てみよう。
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