東芝、省イリジウムの電極を従来比500倍に大型化:水素社会で注目の水電解装置向け(1/2 ページ)
東芝は2022年10月7日、再生可能エネルギー(再エネ)の電力を水素などに変換し、貯蔵/輸送を可能にするPower to Gas(P2G)技術において、希少なイリジウムの使用量を従来比10分の1に抑えた電極を、最大500倍大型化する製造技術を確立したと発表した。
再エネの活用で注目されるグリーン水素
東芝は2022年10月7日、再生可能エネルギー(再エネ)の電力を水素などに変換し、貯蔵/輸送を可能にするPower to Gas(P2G)技術において、希少なイリジウムの使用量を従来比10分の1に抑えた電極を、最大500倍大型化する製造技術を確立したと発表した。
カーボンニュートラルなどの世界的な省エネの流れから、国内ではクリーンエネルギー戦略の策定や法改正が進み、水素社会の潮流が始まっている。
その中でも注目されているのが、再エネを使用して生成する水素だ。いわゆるグリーン水素やクリーン水素と呼ばれるものである。太陽光発電や風力発電などの発電所は、主に地理的な条件から、実際に電力を使用する消費者から遠い場所に設置されることが少なくない。さらに、発電量の変動が激しいため、再エネで発電した電力をいかに無駄なく使用するかは大きな課題になっている。
そこで、再エネの余剰電力を利用して水を電気分解(水電解)し、水素を生成、それを貯蔵、運搬するP2G技術に注目が集まっている。
期待のPEM型、課題はイリジウムの使用
P2Gにおいて基幹装置となるのが、CO2を排出せずに再エネを水素に変換する水電解装置である。水電解方式には、アルカリ、PEM(固体高分子膜)、SOEC(固体酸化物型電界セル)の3種類がある。このうち、再エネ電力の変動に瞬時に追従でき、かつ高い耐久性を備えるPEMは、欧米を中心に盛んに研究開発が進められている。だが、電極に用いる触媒に、レアメタルであるイリジウムを大量に使用するという課題を抱えている。
東芝 研究開発センターのナノ材料・フロンティア研究室 トランスデューサ技術ラボラトリー スペシャリストである吉永典裕氏は、「従来の電極製造技術では、PEM型水電解装置の導入が増えるとイリジウムが不足してしまう」と述べる。「クリーン水素は2020年に0.8Mt(メガトン)生成され、2030年には154Mt、2050年には614Mtの生産が必要だとされている。今後10年で、年間13.6GWのPEM水電解装置が必要だと予測されており、その電極用触媒を製造するには、従来技術では年間約1tのイリジウムを採掘する必要がある」(同氏)
吉永氏によれば、現在のイリジウム採掘量は年間約7tだという。ただでさえ既存の用途で需要が逼迫している中、ロシア情勢の影響で、需要はさらに逼迫すると懸念されている。「省イリジウムの触媒開発が急務になっている」と吉永氏は強調する。
東芝はPEMとSOECの開発を並行して進めているものの、まずはPEMの開発に注力している。
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