東芝、省イリジウムの電極を従来比500倍に大型化:水素社会で注目の水電解装置向け(2/2 ページ)
東芝は2022年10月7日、再生可能エネルギー(再エネ)の電力を水素などに変換し、貯蔵/輸送を可能にするPower to Gas(P2G)技術において、希少なイリジウムの使用量を従来比10分の1に抑えた電極を、最大500倍大型化する製造技術を確立したと発表した。
省イリジウムの「ナノシート積層触媒」
水電解装置は、膜と電極を一体化したMEA(膜電極接合体)を数百枚積層したセルスタックで構成される。MEAは、「カーボンペーパーと白金(Pt)触媒から成るカソード」「電解質膜」「多孔質チタン基材と触媒層から成るアノード」で構成されていて、このアノードの触媒層に酸化イリジウム(IrO2)が使われている。
東芝は独自の酸化イリジウムナノシート積層触媒を開発し、2017年には、イリジウム使用量を既存技術の10分の1に抑えることに成功。今回は、そのナノシート積層触媒を一度に最大5m2まで大型化できる成膜技術を開発し、電極の大型製造技術を確立した。
スパッタリング法でイリジウム使用量を従来比10分の1に
従来、電極形成時には、微粒子の酸化イリジウム触媒を均一に塗布する方式が採用されている。ただ、同方式では、酸化イリジウム触媒の塗布量を削減すると塗布ムラが発生し、反応が不均一になるので、水電解の効率(水素を生成する効率)が低下してしまう。それ故、イリジウムの使用量を減らすことが難しい。
一方、東芝が開発した酸化イリジウムナノシート積層触媒には、成膜技術であるスパッタリング法が用いられている。真空下で、ターゲット(成膜材料)にアルゴンイオンなどを衝突させ、はじき出された粒子を基材に堆積していく手法で、半導体製造にも使われる。
東芝が開発した技術では、イリジウムターゲットと造孔材ターゲットを交互にスパッタし、ミルフィーユのように積層していく。その後、エッチングにより造孔材だけを抜く。これにより高い表面積を備えた均一な触媒層を形成でき、イリジウム使用量を10分の1に削減しつつ、既存触媒と同等の水電解効率を維持できるようになった。吉永氏によれば、スパッタリング法によって製造した東芝の触媒層の耐久性は「1年間の連続使用で、効率の劣化は約1%」だという。


最大5m2の大型化が可能に
今回は、このスパッタリング法を改良し、一度に最大5m2の成膜が可能になる技術を開発した。これまでは、0.1mg/cm2のイリジウムを使用して100cm2のナノシート積層触媒を作製していたが、同じ量のイリジウムを用いて最大5m2、つまり500倍大型化した触媒を成膜できるようになる。これはそのまま、電極の大型製造につながる。
東芝は外部評価試験を開始し、エネルギー事業関連のシステムやサービスの開発、製造、販売を行う東芝エネルギーシステムズと連携して、2023年度以降の製品化を目指している。
吉永氏によれば、5m2のMEAは、約200kWの水電解装置向けの電極に相当するという。「メガソーラーの横に設置する水電解装置1台に使う電極をまかなえるというイメージだ」(吉永氏)。同氏は「当社がMEAを販売する中で、電極を大型化できないというのが最大の障壁だった。今回の発表は、社内のビジネス面でも、そして学術的にも意義がある」と続けた。
さらに、東芝は、イリジウム使用量を40分の1にまで下げる開発も、国家プロジェクトの一環として行っている。
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