減ることのない半導体と電子部品の偽造 ―― リスク承知の購入は危険:半導体製品のライフサイクルに関する考察(6)(2/4 ページ)
前回、偽造半導体を購入するまでの過程と、その背景などについて説明をした。今回は、そのような状況において、どのようなプロセスを踏むと偽造半導体を購入してしまう可能性が高まるのか、ということについて解説していく。
購入した半導体は偽造品なのか?
半導体を使用して製品を製造している企業においては、さまざまな事情により、やむを得ず市場流通品を購入するケースもあると思われる。だが、そこには偽造半導体を購入する可能性があるという、大きなリスクがあることをあらためて理解してほしい。
1995年に設立され、世界の電子機器サプライチェーンに影響を与える問題を監視、調査、報告するグローバルな情報サービス機関であるErai社では、同社Webサイト上に、「Hundreds of Component Buyers Scammed by Fraudulent Websites(不正サイトによる数百人の部品購入者の詐欺被害について)」という題目でブログを作成し、注意喚起を行っている。このブログに掲載されている不正サイトといわれているWebサイトの一つを訪問してみると、次のようなキーワードが並んでいた。
Highly reliable and tested product
(高信頼性・テスト済製品)
High Quality and Competitive Price
(高品質と競争力のある価格)
Lower Procurement Cost, Free Shipping Available
(調達コスト削減、送料無料)
図3:不正サイトといわれているWebサイトに記載されているキーワード
多くのWebサイトは、既にアクセスできない状態だったが、アクセスできたWebサイトの中には、「高信頼性・テスト済製品」と同等の表現として「製品保証」と表示しているサイトもあった。
このようなワードが記載されていると、なんとなく安心してしまいがちだ。ただし、そのワードを裏付けるような情報や判断材料は、これらのWebサイトのどこにも記載されていない。
この「高信頼性・テスト済」を裏付けるものは何かあるのだろうか。オリジナル半導体メーカーでは製造時に、すべての製品に対して仕様書に基づいた検査基準を設定し、試験を実施している。この試験結果に基づいて、ランク分けを行ったり、良品と不良品に分けて良品のみを出荷したりしている。これは間違いなく信頼できるテスト済の製品といえる。本来であれば、この製造工程を経てオリジナル半導体メーカーから出荷された製品を、直接あるいは正規販売代理店を経て購入することになるので、正規販売代理店より購入した半導体は信頼できるテスト済みの製品である。
これに対し、正規販売代理店以外の販売業者で、「高信頼性・テスト済」と記載している場合、どのようなテストを実施することができるのだろうか。前提として、こういった販売業者では、オリジナル半導体メーカーが使用している半導体製造時の合否判断基準となるパラメーターや、試験装置、試験用のテストボードなどを入手することはできない。つまり、販売業者独自のテストを実施していることになる。しかもこの、「高信頼性・テスト済」というそのテストの内容もいくつかのレベルが存在している。そのレベルを図4に示す。
- レベル1:書類検査と外観検査
- 納品書の内容を確認し、納入された製品が正しいか確認する書類検査と、納品された製品の外観を確認し、外観上問題がないことを確認する外観検査。
- レベル2:X線検査
- 納入された半導体製品全数に対し、X線解析を実施し、パッケージ内のICチップの有り無しや、ワイヤボンディングの状態を確認する。
- レベル3:基本的動作試験
- 何らかの方法で、半導体製品に対し電源投入し動作するかどうかを確認する。
- レベル4:完全な機能試験
- データシートに記載されている仕様を満足しているかどうかを、カーブトレーサなどの設備を使用して確認する。
図4:「高信頼性・テスト済」とは?
これを見ると、単に製品に添付されている納品書のような書類を確認したことで検査済としている場合もあり、テストといえる内容ではないものがあることが分かる。購入者からすれば、この図4の「レベル4:完全な機能試験」の対応をしていることが、「テスト済」と捉えるだろう。しかし、このレベルの試験を実施するために検査機器や測定機器、これらの機器を設置する設備を用意する必要がある。しかも、全数検査が必要な場合もあるために、場合によっては大規模な設備になる可能性がある。そういったことから現実的に考えれば、ここまでの設備をそろえてコストをかけてまで半導体を扱う可能性は少ないだろう。やはり多くは、最も簡単でコストのかからない方法を採っていると思われる。しかも、これらのテストレベルのうち、どのレベルの対応をしているのかは明らかにされていないことが多い。結果として、こういった販売業者から半導体を購入する場合は、購入者側がリスクを負うかたちになってしまう。
そうなると、偽造半導体を使用しないためには、購入者自らが、購入した半導体が偽造品かどうかを確認するほか対応手段がないといえる。半導体を購入する場合、一般的には受け入れ検査を実施している。通常は、この受け入れ検査時には、書類の確認と外観検査をもって完了している場合が多い。つまり、図4の「レベル1:書類検査と外観検査」のみを実施していることになる。そこで、正規販売代理店以外から購入した半導体を受け入れる場合は、図4の「レベル2:X線検査」から「レベル4:完全な機能試験」を行えば、ある程度の確認はできるのではないかと考える。ここで問題になってくるのが、このレベル1からレベル4までの検査を行えば、すべての偽造半導体を検出することができるかという点である。これについては、図5を見てほしい。こちらは、偽造タイプに対しさまざまな検出方法について、検出が可能かどうかをまとめた表になっている。
図5に記載されている検出方法は、あくまでも受け入れ検査時に実施可能な検査のみを記載している。一般的に半導体の真贋判定サービスなどで実施されているパッケージの開封観察や、薬品を使用した検査など半導体にダメージを与えるような検査は除外している。
図5に示している通り、オリジナル半導体メーカーが実施している検査であれば、対象の半導体が偽造品かそうでないかは、確実に検出することができる。しかしながら、その他の方法では、偽造タイプによっては検出できないことが分かる。例えば、偽造タイプの一つである「製造時に不合格となった半導体」であるかどうかを検出する場合、その製品が仕様を満たしているかどうかは、電気的特性を確認するほかない。しかし、DCテストでは一般的な電気的仕様は確認することはできるが、製品仕様すべてを満たしているかどうかまでは確認することができない。また、「有鉛品を鉛フリー品として偽造」している場合、対象の半導体に関する書類やラベルなどが偽造されていると、偽造を検出することは、蛍光X線分析法(XRF:X線を照射することで発生する蛍光X線から、元素分析や組成分析を行う手法)によってのみ可能であり、電気的特性や通常の外観検査では偽造半導体かどうかを判断することはできない。
ここで注意しておきたいポイントがある。それは、X線試験によってパッケージ内部の状態を確認すると、チップサイズやボンディングワイヤの位置などが違う半導体が見つかることがある。これについては、注意が必要だ。半導体の製造において、製造工場の移管があったり、製造プロセスの変更が行われたりする場合がある。特に、ウエハー製造プロセスの微細化が実施されると、それに伴いICチップのサイズは小さくなることが多い。このチップサイズの変更により、ICチップとパッケージ間をつなぐボンディングワイヤの接続方法も変更変わる場合がある。そのため、同じ正規品であっても製造時期の違いにより、内部のICチップのサイズやボンディングワイヤの接続状態が違う場合がある。これについては、オリジナル半導体メーカーが発行している変更通知(PCN)を確認し、上記のような変更が実施されていないかを確認した上で、真偽判定を実施すべきである。また、外観試験の項目の一つに、パッケージのマーキングの検査がある。これについても、製造工場や製造プロセス、使用する設備の変更に伴いマーキング仕様が更新されている可能性がある。製品によっては、型番のフォントが違っている場合もある。そのため、どのような違いについても、まずはPCNの存在を確認し、対象になる半導体が偽造半導体かどうかを見極めていただきたい。
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