1日1回の外出は2000円の価値? 「孤独」がもたらす損失を試算してみる:「お金に愛されないエンジニア」のための新行動論(11)(8/9 ページ)
今回は、「移動」と「ウェルビーイング」を解析した論文を読み解いてみました。そこで得た結論は、「孤独を回避して幸せになりたいのなら、毎日外へ出ろ」というものです。
「1日1外出」、やってみましょう
では、この論文の内容をまとめたいと思います。
ここで強く申し上げたいのは、上記#6の「移動距離より移動回数が重要」という点になります。長距離の外出は不要で、近場でいいから小まめに外出しろ、ということです。
また、社会的疎外のリスクは、政府や町内会だけなく、自分の努力(外出するだけ)で、十分改善できる(#1)ということも示しています。自分に無理のない範囲で、あいさつ程度のことをするだけでも、社会的疎外リスクは減って幸福感は増える(#4)ということです。
まあ、だまされたと思って、今からでもやってみましょう ―― たかだか、散歩とあいさつをするだけのことです。
それでは、今回のコラムの内容をまとめてみたいと思います。
【1】前回に引き続き、今回も「お金に愛されなくても、そこそこ幸せになるには」という観点から、「孤独」について着目して、既往研究を調べてみることにしました。
【2】最近、ちまたで見かける「孤独は、1日たばこ15本分の害悪」について、その出典を調べて、ざっくりと読み込んでみました。その出典では、"孤立"や、"孤独"が、間違いなく人の寿命を短くしていることをデータから明らかにしていました。また、この孤独問題が、シャレにならないと判断して、政府直属の機関で対応を始めた、イギリスと日本の対応状況を説明しました。
【3】「世界一孤独な日本のオジサン」という本を読んで、「30年前の状況と1mmも違わず、そっくりそのまま」の状況であることに愕然とし、はっきりいって「私たちって、バカなの?」と思わなければならないほどの衝撃を受けました。
【4】”移動”と”ウェルビーイング”の関係に、”社会的疎外”という要素を加えて解析している論文を選択し、それを読み込んで、その中身を明らかにしました。その結果、政府が”外出奨励”を促している理由や、”社会的疎外”、”ソーシャルキャピタル”の内容を明らかにした上で、論文著者が考案した、「心理的幸福モデル」の解説を行いました。
【5】「心理的モデル」からの解析の結果、「外出によって社会的疎外リスクを免れる値段」を算出してみると、(2011年のオーストラドルで)ざっくり2000円になることが分かりました ―― 外出するだけで2000円です。これは美味しいと思いますので、みなさんも、1日1外出、やってみましょう。
以上です。
「お前が幸せになれないのは、単にお前の勉強不足だ」
今回の論文のレビューを経て、社会的疎外リスクや主観的幸福というものが、数値化できることが分かりました。
そして、ここが重要なのですが ―― それらは、エンジニアリングできそう、ということです。
金融をエンジニアリングしたものを「金融工学」と呼びます。それなら幸福をエンジニアリングできるのであれば、これは「幸福工学」と呼べるものになるでしょう。
また、恋愛を工学的アプローチで設計・実施・検証ができるまで体系化できるのであれば、「恋愛工学」として成立し得ると思います。同じ理由で、「結婚工学」があっても良いと思います
「○○大学工学部 恋愛/結婚工学科」 ―― うん、悪くない*)。
*)筆者のブログ
「(江端の妄想は)バカげている」と思われるかもしれません。
しかし、私も、ウェルビーイングの学術調査を始めるまでは、「幸せ」というものが、可観測な対象である、とは思っていなかったのです。今後、この研究が進めば、「幸福工学」によって、「幸せ」が可制御(コントロール可能)に至ることは十分に期待できます。
そのように考えていけば、「おまえが、幸せになれないのは、単におまえの勉強不足だ」 ―― と、言われるようになる日は、それほど遠くないのかもしれません。
気を付けなければならないことは、この「幸福工学」が、世界中の人間(研究者、学者、その他)から、ロジカルで客観的な厳しい検証をへた上で、科学的かつ普遍的に成立するものではければならないことです。
科学とは、観察→仮説→実験→検証のループのことです。これらのプロセスが1mmも登場してこない『幸福を科学する』などと標榜(ひょうぼう)するカルト団体などによって、うまいこと利用されかねないリスクには、十分注意すべきでしょう。
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