1日1回の外出は2000円の価値? 「孤独」がもたらす損失を試算してみる:「お金に愛されないエンジニア」のための新行動論(11)(7/9 ページ)
今回は、「移動」と「ウェルビーイング」を解析した論文を読み解いてみました。そこで得た結論は、「孤独を回避して幸せになりたいのなら、毎日外へ出ろ」というものです。
幸福に「値段」をつけてみる
さて、ここから著者は、前述の心理的幸福モデルに、移動、社会的疎外、ソーシャルキャピタルを突っ込んで、幸福に値段をつける作業を開始します。
上記は誤植ではありません。本当に「幸福の値段」です。
正確に言えば「社会的疎外から免れる値段です」。著者の意図とは違っていたとしても(多分間違っていると思う)、私(江端)は、この論文をそう読み取りました(この解釈への批判は私個人が受けます)。
では、この論文の著者の心理的幸福モデルを図示します。
さて、このモデルの特徴は、いくつかありますが、大きくは以下の3つです。
(1)社会的疎外リスクと、個人的ウェルビーイングを2つのモデルとして分離する
(2)個人的ウェルビーイングは、社会的疎外リスクという一つの要素として取り込む
(3)「外向性(フットワークの軽さ?)」と「年齢」については、関連づけておく
これは、全ての要素を個人的ウェルビーイングで終端しても、因果関係が強く出てこないということが分かっているからです。また「外向性」と「年齢」については特殊な関係(後述)が認められているからです。
で、ここに、それらの集計結果を当てはめてみると、次のような感じになるようです。
個々の数値の説明は置いておくとして、ざっくりその効果を説明すると、こんな感じになります。
(A)モデル2つにばっさり分けて良かった → 何もかも「個人的ウェルビーイングで終端するより、一度、「社会的疎外」でまとめた方が、相関関係がクリアになる
(B)年齢とともに、「個人的ウェルビーイング」は上がるが、「外向性(外出フットワーク)」は下がる
(C)「外向性」が下がると、社会的疎外リスクは上がる
(D)「社会的疎外リスク」が下がると、「個人的ウェルビーイングは上がる
ここで注目すべきは、加齢とともに外出機会は減るが、ウェルビーイングが上がることで、バランスが取られている、という点です。
なぜ加齢とともにウェルビーイングが上がるのかについては、前回の記事「「お金がなくてもそこそこ幸せになれるのか」を宗教と幸福感から真剣に解析してみる」をご一読ください。
で、これらの値を使って、「外出によって社会的疎外リスクを免れるコスト」を算出すると、(2011年のオーストラリアドルで)ざっくり2000円になります。
もっとも、これは、あなたに2000円が手に入ってくるというわけではないのですが、たった一度の外出で、ざっくり2000円分の何かを、あなた個人と社会が得られる、ということです。
ただ、ここでは、旅行(外出)の最大効用値を使っているので、1日目に2回、3回と外出を増やすと、コストが下がっていきます(が、ゼロではありません)。まあ、1日1回外出すれば、その距離に関係なく、2000円分があなた(と社会)のものになる、ということです。
まあ、このような強引な金銭換算には批判があるかもしれませんが、外出が社会的孤立に対して意義があるのは確かです。ここは一つ、だまされたと思って、取りあえず1日1回は外出しましょう。計算上、1カ月で6万円分の、1年間で73万円分の、“何か良いこと*)”があるはずです。
*)医療費とか、出会いとか、あるいは、アドレナリン分泌のようなものかもしれませんが。
(ちなみに、ラトローブ・バレーの結果も出してあります。ご興味のある方は御連絡下さい)
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