耐放射線Ka帯フェーズドアレイ無線機を開発:低軌道衛星コンステレーション向け
アクセルスペースと東京工業大学は、低軌道通信衛星コンステレーションに向けて「放射線耐性の高いKa帯無線機」を開発した。「Beyond 5G」に向けて、小型衛星の通信速度を大幅に向上させられる技術だという。
フェーズドアレイICに放射線センサーを搭載し、性能を補償
アクセルスペースと東京工業大学科学技術創成研究院未来産業技術研究所の白根篤史准教授と同工学院電気電子系の岡田健一教授、戸村崇助教は2023年2月、低軌道通信衛星コンステレーションに向けて「放射線耐性の高いKa帯無線機」を開発したと発表した。「Beyond 5G」に向けて、小型衛星の通信速度を大幅に向上させられる技術だという。
アクセルスペースは受託研究として、「Beyond 5G次世代小型衛星コンステレーション向け電波・光ハイブリッド通信技術の研究開発」に取り組んでいる。これを実現するため、Ka帯を用いた「電波・光ハイブリッド通信衛星コンステレーションネットワーク」の構築を目指している。東京工業大学と共同で行った「Ka帯フェーズドアレイ無線機および、広帯域Ka帯通信機の研究開発」もその一環である。
フェーズドアレイ無線機は、アレイアンテナとフェーズドアレイICで構成され、小型軽量化に向けて、多くの製品が同一基板上に実装されている。このため、衛星に搭載する場合は筐体外部に設置されることになり、放射線による劣化を考慮する必要があった。
そこで今回、フェーズドアレイICに放射線センサーを搭載し、全てのアンテナ素子で放射線劣化を検出できるようにした。具体的には、64素子のアレイアンテナと、シリコンCMOSプロセスで製造した16チップのフェーズドアレイICからなる耐放射線Ka帯フェーズドアレイ無線機を試作した。各ICには4個の放射線センサーを搭載し、合計64個の放射線センサーが64個のアンテナ素子に対応している。これによって、アレイ上のあらゆる位置で放射線劣化を検出することができる。
試作したフェーズドアレイ無線機の基本性能を測定したところ、Ka帯の25.9GHzから30.1GHzで動作し、256APSK変調時に右旋・左旋の両円偏波において最大8Gビット/秒の通信速度を達成した。雑音指数は3.6dBであった。消費電力は1系統あたり2.95mWで、この値は従来に比べて5分の1以下だという。
さらに、東京工業大学にある千代田テクノルコバルト照射施設でコバルト60ガンマ線の照射試験を行った。計算で求めた総電離線量と、放射線センサーで実際に検出した値を比較したところ、開発した放射線センサーで良好な検出特性が得られていることが分かった。しかも、検出値を用いて特性劣化を補償することで、2dB以上の利得性能が改善できたという。
アクセルスペースと東京工業大学は、送信向けフェーズドアレイ無線機も開発中である。数年以内には「受信フェーズドアレイ無線機」と「送信系フェーズドアレイ無線機」および、アクセルスペースが開発中の「広帯域Ka帯送受信機」を統合した、高放射線耐性で省電力の「Kaバンド通信サブシステム」を搭載した実証小型衛星の打ち上げを予定している。
今回の研究成果は、米国サンフランシスコで開催された国際会議「ISSCC 2023」で、その詳細を発表した。また、2023年3月に開催される「Satellite 2023」にも展示する予定。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ISSCC 2023、中国が採択論文数で北米を抜き1位に
半導体関連の世界最大規模の国際学会「ISSCC 2023」が、米カリフォルニア州サンフランシスコで2023年2月19〜23日に開催される。論文の採択では、これまでに見られない大きな変化があった。 - 東工大、マルチバンドフェーズドアレイ受信IC開発
東京工業大学は、Beyond 5G端末機に向けた「マルチバンドフェーズドアレイ受信IC」を開発した。新たに提案した高周波選択技術を採用したことで、24G〜71GHzというミリ波帯の全バンドに、1チップで対応することができるという。 - 静電アクチュエーターの出力を1000倍にする有機強誘電材料
東京工業大学は、静電アクチュエーターの出力を、従来の1000倍にできる「有機強誘電材料」をENEOSと共同で開発した。この材料を用いた静電アクチュエーターは軽量かつ柔軟性に優れており、駆動電圧も数十Vで済むという。 - ナノ構造誘起法で、強磁性単結晶ナノワイヤを作製
東京工業大学は、新たに開発した「ナノ構造誘起法」を用い、10kOe以上という高い保磁力を有するL1▽▽0▽▽規則化単結晶構造の「強磁性ナノワイヤ」を、アニール(加熱)処理のみで作製した。 - 富士通と東京工業大学、「協働研究拠点」を設置
士通と東京工業大学は、東京工業大学すずかけ台キャンパス内に「富士通次世代コンピューティング基盤協働研究拠点」を設置した。現行HPCの処理能力を超える次世代コンピューティング基盤の確立と、応用範囲の拡大を目指す。 - 産総研ら、表面弾性波で単一電子を高い効率で移送
産業技術総合研究所(産総研)や東京工業大学らによる研究グループは、表面弾性波の孤立パルスを発生させる技術を開発するとともに、この技術を用い単一電子を高い効率で移送することに成功した。量子コンピュータにおける量子情報の移送手段として、その応用が期待される。