SiCウエハー欠陥無害化技術の新会社が始動:8インチ見据えた新製造法、2025年の実用化へ(1/2 ページ)
関西学院大学と豊田通商は2023年3月、SiCパワー半導体ウエハーに関する研究開発会社「QureDA Research」を設立したと発表した。「国内外の企業と来たる大口径化(8インチ)を見据えたパワー半導体SiCウエハーの新たな製造法を2025年に実用化することを目指す」としている。
関西学院大学と豊田通商は2023年3月22日、SiC(炭化ケイ素)パワー半導体ウエハーに関する研究開発会社「QureDA Research」(キュレダリサーチ)を設立したと発表した。関学大と豊田通商が開発したSiCウエハーの欠陥を無害化する表面ナノ制御プロセス技術「Dynamic AGE-ing」を主軸に、SiCウエハーの高品質化、低コスト化などを実現し、「国内外の企業と来たる大口径化(8インチ)を見据えたパワー半導体SiCウエハーの新たな製造法を2025年に実用化することを目指す」としている。
SiCの高品質、低コスト化を実現する技術、実用化へ
電動車(EV/HV/FCV)の採用加速など、SiCパワー半導体は急激な需要拡大が見込まれている。ただ、シリコン(Si)と炭素(C)という異なる原子から成るSiCのウエハーは従来のSiウエハーと比べ結晶成長時の品質維持が難しく、基底面転移(Basal Plane Dislocation、BPD)などの結晶欠陥が発生するほか、硬くて脆い材料であることから加工自体が難しく、機械加工時に生じる残留加工ひずみも問題となる。これらは全てSiCデバイスの動作不良に直結するエピ欠陥の要因となることから、歩留まりがなかなか向上できず、その結果としてSiCデバイスが高価となってしまっている。
Dynamic AGE-ingは、こうした課題を解決する技術で、特定の結晶欠陥の無害化や残留加工ひずみの除去を実現し、ウエハーの品質向上、安定化が可能になるという。QureDA Research社長に就任した瀬川恭平氏は、「大きな問題となっている製造歩留まりの改善に寄与できる革新的技術で、結晶メーカーやサイズを問わず高品質が可能だ」と語った。
Dynamic AGE-ingは、関学大工学部教授、金子忠昭氏が25年にわたる研究で生み出した技術で、同技術を活用する製造プロセスの確立、実用化を目指し、2017年から同大と豊田通商が共同研究を実施。ユーザー企業およびメーカーが広く参画できる開発プラットフォームを構築し、技術開発および実証を行ってきたという。今回、「事業化しうる要素技術が確立してきた」ことから、QureDA Researchの設立に至ったとしている。
QureDA Researchの設立は2023年3月16日付で、社員数は6人。本社は兵庫県三田市の関学大神戸三田キャンパス内に置く。資本金は4億5000万円で関西学院と豊田通商がそれぞれ50%出資する。社長は豊田通商機械・エネルギー・プラントプロジェクト本部の瀬川氏、最高技術責任者(CTO)には金子氏が就任している。
QureDA Researchのビジネスモデル
QureDA Researchでは、SiCウエハー製造に課題を持つ企業を募り、独自の共同開発プラットフォームを通じて「SiCウエハー製造における良質な課題設定と、早期の課題解決を図る」としている。
収益スキームとしては、参画企業による共同開発にかかる開発費の負担、共同開発から製品販売に移行した際のライセンスのロイヤリティー収入、の2つを想定。想定顧客について、瀬川氏は、「スタートアップから大企業。そしてウエハーメーカー、エピメーカー、デバイスメーカーなど業種の垣根を超えて広く共同開発から技術供与までを考えている」と説明。「既に国内外から数十社のオファーを受けている」と述べた。また、今後、参画企業の保有技術を掛け合わせた新規開発も積極的に検討を進める方針だという。
なお、同社は2025年に8インチサイズでの実用化を目標としていて、既に8インチサイズの量産試作機を1台導入済みだ(2023年4月にもう1台導入予定)
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