進まぬリチウムイオン電池のリサイクル:EVでも喫緊の課題だが(1/2 ページ)
EV市場は堅調な成長が予測されているが、バッテリーのリサイクルが大きな課題になりつつある。
バッテリーのリサイクル業界が直面する課題
電気自動車(EV)が環境にもたらす利点は誰もが認めるところだが、EVに電力を供給するリチウムイオンバッテリーについてはまだ結論が出ていない。バッテリーに使われる原料の多くは危険物であり、調達や再利用が難しい。New York Timesの報道によると、EV業界が循環経済(サーキュラーエコノミー)に向けて努力する中で、EV用バッテリーの再資源化と再利用は投資家や起業家にとって優先事項になっているという。
だが、EV用バッテリーの再資源化や再利用に取り組む新興企業は、そうした事業に以前から取り組んできた企業と同様に、根本的なビジネス課題に直面している。特に米国では、EV用バッテリーの再資源化は少なくとも10年は収益が見込めそうにない。理由は単純で、急速に拡大している事業に投じるだけの使い切ったバッテリーがないのだ。
規模の経済をめぐる課題はエレクトロニクスのサプライチェーンで顕著にみられる。部品やバッテリーのメーカーやサプライヤーは環境責任へのコミットメントを強化しているが、製造/販売した機器が役目を終えるところまで管理できることはほとんどない。さらに、サプライヤーは製品の返品を受け付けているので、欠陥品や旧式のデバイスを在庫として抱えていることが多い。ROI(投資利益率)はほんのわずかだ。
IP&E(産業機械/エレクトロニクス)専門のディストリビューターであるTTIで総合品質担当バイスプレジデントを務めるKevin Sink氏は、米国EE Timesに対し「1台のトレーラーに積まれたスクラップを集めると、約100万〜125万米ドル相当の在庫になる。それを密閉してリサイクルに回すわけだが、当社の取り分は2万5000〜3万米ドルくらいだ。とはいえ、重要なのは安全性と責任である。一般人がゴミ箱をあさって欠陥部品を取り外し、それをエレクトロニクスのサプライチェーンに戻す、というようなことはあってはならない」と語った。
それでも、New York Timesによると、自動車メーカーやエネルギー企業、ベンチャーキャピタリストは、バッテリーの再利用事業を手掛ける多くの欧米新興企業に投資しているという。だが、ビジネス課題の一つは規模の経済である。例えばEV業界を率いるTeslaは、2008年から自動車を販売してきた。同社がわずか10万台のしきい値を達成したのは2017年のことだ。
それでも不可欠な「バッテリーのリサイクル」
「EV用バッテリーの再資源化」という言葉には説得力がある。コバルト、リチウム、ニッケルなど、バッテリーに使われる材料は採掘が難しく、人権が損なわれてきた歴史を持つ地域から調達されることが多い。そうした材料を使用済みバッテリーから回収して再利用し、新たなバッテリー製造に使用できれば、EV業界の持続可能性は高まる。メーカーは海外から調達する材料への依存度を減らすことができる。
市場規模も成長するだろう。MarketsandMarketsによれば、リチウムイオンバッテリー再利用の世界市場は、2021年に46億米ドル規模となり、2030年には228億米ドルに達する見込みだという。
2022年夏に米バイデン大統領が署名した米国インフレ抑制法(U.S. Inflation Reduction Act)では、EV購入で税額控除を受けるためには、バッテリーに含まれる重要鉱物のうち、米国内あるいは米国と自由貿易協定を締結している国で採掘/加工されたものの価額が所定の割合以上になることが要求されている。
EUは、欧州市場で販売するバッテリーメーカーの環境およびデューデリジェンス基準に関する厳しい新法を可決し、バッテリーに含まれるニッケル、コバルトのほぼ全ておよびリチウムの半分を、耐用年数終了後に回収することを要求している。
2021年後半の時点で、中国には米国と比較して3倍以上の既存および計画中のリチウムイオンバッテリーのリサイクル能力があったことが報告されている。しかし現在、中国メディアから入手した推計によれば、バッテリー素材の約30%〜40%しかリサイクルされていないという。
リサイクル方法は進化しているが、リチウムイオン電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池は何十年も前から再処理されていることは特筆すべきことだろう。だが、エレクトロニクス産業やバッテリー産業に携わる多くの企業にとって、これらの取り組みに対する投資効果はほとんどないのが実情だ。
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