進まぬリチウムイオン電池のリサイクル:EVでも喫緊の課題だが(2/2 ページ)
EV市場は堅調な成長が予測されているが、バッテリーのリサイクルが大きな課題になりつつある。
リサイクル業者がビジネス的に成功するには、EVの数が足りない?
バッテリーのリサイクル業者の多くは、事業運営に必要な数量を確保する上で、廃品回収を頼みの綱にしている。現在、EVの需要は急増しており、BCGの予測によれば、2035年には全世界の小型自動車の売上高全体の59%を電池式電気自動車が占める見込みだという。このためリサイクル業者は、競合相手の一歩先を進むべく、施設や装置の拡充や人員増加を図っているところだ。
McKinseyによると、EV用バッテリーのバリューチェーンは2020〜2030年に約10倍に広がり、年間売上高は約4100億米ドルに達する見込みだという。しかし、リサイクル業者があまりにも急激に拡大すると、老朽化した電池を相当数蓄積する前に、資本不足に陥る可能性がある。EV用バッテリーの寿命は15〜20年だ。
現在、路上を走行しているEVは比較的少なく、その大半が新車である。スマートフォンやノートPCなどの電子機器にもリチウムイオン電池が使われているが、回収することが難しく、自動車業界の高まる需要に対応できるだけの数量はないという状況だ。
米国では、電池リサイクルに関する規制が州ごとに異なる。一部の州では、ブランドオーナーが電池の回収/廃棄のための資金を提供する必要がある。一方で、全く規制がない州もある。多くのリサイクル業者は、Call2Recycle.orgのような非営利団体と連携して、使えなくなった電池用のリサイクル物流を管理している。
カスタムの組電池を生産するSager Power Systemsでプログラムマネジャーを務めるNajib Habiby氏は、EE Timesのインタビューに応じ、「Sagerは、Call2Recycle.orgのメンバー企業だ。EV用バッテリーの分野には直接関与していないが、当社の製品があらゆる場所に行き着く可能性があるということを認識している。われわれはCall2Recycle.orgのおかげで、現在義務化されている回収法や、いずれ制定される可能性がある法律を順守することができる」と述べる。
EV用バッテリーをいったん回収すると、次はそれを解体することがハードルになる。リチウムイオン電池は発火の原因になることがあり、自動車ユニットは重量が非常に大きい。その上EV用バッテリーは、自動車の型式ごとにパッケージや構造が異なる。設計が標準化されていればリサイクル処理を合理化できるが、大半の自動車メーカーや電池メーカーはそれについてほとんど関心を示していない。
注目すべきバッテリーリサイクル企業
EV用バッテリー分野において注目すべき企業の一つとして挙げられるのが、Jeffrey Straubel氏が2017年に米国ネバダ州に設立した、Redwood Materialsだ。同氏は、かつてTeslaでCTO(最高技術責任者)を務めた経歴を持つ。Redwood Materialsは主に、回収金属や採掘金属で構成される、電池メーカーとして市場に参入している。Ford Motorやトヨタ自動車、Volkswagen、Volvoなどの企業と、リサイクル関連のパートナーシップを構築している他、パナソニックやTeslaが運営する電池工場から出る廃品のリサイクルも手掛ける。
Dealroomによると、Redwood Materialsへの投資総額は、7億9200万米ドルに上る。
リサイクルのみに特化した企業もある。カナダのLi-Cycleは、元エンジニアリングコンサルタントの2人によって2016年に設立された企業だ。Li-Cycleは、環境に優しいプロセスでリチウムイオンバッテリーをリサイクルするクリーンテクノロジー企業であると認識されている。同社の2022年第4四半期および通年の売上高は、それぞれ300万米ドルおよび1340万米ドルだった。なお2021年の同期間における売上高は、440万米ドルと730万米ドルだった。
スウェーデンのNorthvoltは、バッテリーのリサイクルと製造を手掛ける。Teslaでサプライチェーン責任者を務めていたPeter Carlsson氏が、2015年に立ち上げた企業だ。Northvoltは2017年以降、デットとエクイティによって約80億米ドルの資金を調達している。
【翻訳:青山麻由子、田中留美、編集:EE Times Japan】
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