Panthronics買収で屋台骨をさらに強化したルネサス:パートナー企業を「統合」する狙い(1/2 ページ)
ルネサス エレクトロニクスのIoT・インフラ事業は、オーストリアPanthronicsの買収により、また一つ強化された。今回の買収にはどんな狙いがあったのか。
ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)は2023年3月、NFC(近距離無線通信)チップセットやソフトウェアを手掛けるオーストリアPanthronicsを買収すると発表した。買収金額は非公開。2023年内にも買収が完了する見込みだ。ルネサスは、Wi-FiやBluetooth用チップなどを手掛ける英Dialog Semiconductor(以下、Dialog)と、Wi-Fi用チップセットを展開するイスラエルCelenoを2021年に買収している。今回のPanthronics買収は、コネクティビティ技術関連では、この2社に続く取引となる。
買収により、PanthronicsのNFC関連技術は、ルネサスのIoT・インフラ事業本部の傘下に置かれる。同事業本部の2022年通期の売上高は8459億円。2021年12月期第2四半期(4〜6月期)以降、売上高は常に自動車向け事業を上回っていて、ルネサスの「第一の屋台骨」となっているビジネスだ。Panthronics買収の狙いを、ルネサスの執行役員常務兼IoT・インフラ事業本部長を務めるSailesh Chittipeddi氏に聞いた。
「パートナー」から「統合」へ
――Panthronicsを買収しましたが、同企業の概要をあらためて教えてください。
Sailesh Chittipeddi氏 PanthronicsはNFC技術を手掛ける企業で、NFCリーダーIC/ライターICと、NFCワイヤレス給電システムを中核としている。同社のターゲットアプリケーションは、固定POS(Point of Sales)やモバイルPOS、ワイヤレス充電システムやキーレスエントリーシステムなどで、ルネサスのターゲット分野とも一部重複している。
Panthronicsには約80人のエンジニアが在籍していて、非常に競争力のある企業だ。
――Panthronicsとルネサスは2018年からパートナーとして協業してきました。協業を続けるのではなく、買収するという決断に至った理由は何でしょうか。
Chittipeddi氏 買収することでPanthronicsのNFC技術をルネサスの製品ロードマップに統合しやすくなるというのが理由の一つだ。例えば、ルネサスのIoT機器向けマイコン「RA6M4」シリーズには、当社独自の暗号エンジンなどのセキュリティ機能が統合されている。このセキュリティ機能を切り取って、シンプルなNFCデバイスに統合し、ターンキーソリューションとして提供するといったことが、今後は可能になる。
同じように、NFCワイヤレス充電機能を、ルネサスが持つ既存のソリューションと組み合わせやすくなる。
――NFC市場でルネサスのソリューションの拡大を狙うということですね。
Chittipeddi氏 NFCは、われわれにとってビジネス機会が広がる分野だ。超低消費電力を求められるアプリケーションでは、(Qiなど大電力を供給する一般的な)ワイヤレス充電技術の統合は難しくても、NFCワイヤレス充電であれば統合できるケースも多い。とりわけ、1Wクラスの給電能力でも十分なアプリケーションでは、NFCワイヤレス充電が理想的なソリューションになる場合もある。
オートモーティブ分野でもNFC技術の活用を広げられると考えている。スマートフォンとクルマの接続が必要になる用途では、充電ケーブルを使う従来方法の“対抗馬”としてNFCワイヤレス充電を活用できるのではないか。さらに、NFCであれば、充電だけでなくデータ転送の機能も活用できる。動画のような大容量データのやりとりには不向きだが、小容量のデータ転送を安全に行えるという特長を生かし、キーレスエントリーシステムなどへの活用が考えられる。
――ルネサスは、ここ数年でワイヤレス通信技術を手掛ける企業を買収してきました。
Chittipeddi氏 DialogとCelenoを買収することで、Wi-FiやBluetooth技術を入手した。さらに当社はUWB対応ソリューションも開発中だ。ここにNFCが加わることで、ルネサスは、PAN(Personal Area Network)に関わる技術のピースを、また一つ手に入れたことになる。
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