Panthronics買収で屋台骨をさらに強化したルネサス:パートナー企業を「統合」する狙い(2/2 ページ)
ルネサス エレクトロニクスのIoT・インフラ事業は、オーストリアPanthronicsの買収により、また一つ強化された。今回の買収にはどんな狙いがあったのか。
独自のハードウェアアーキテクチャ
――NFCは、NXP Semiconductors(NXP)、STMicroelectronics(ST)、Infineon Technologiesなど、ルネサスの競合も手掛けています。これら競合他社のソリューションに比べて、Panthronicsの技術にはどのような強みがあるのでしょうか。
Chittipeddi氏 ハードウェアアーキテクチャと、設計の検証(Verification)および妥当性確認(Validation)環境、この2つが大きな強みだ。
Panthronicsのハードウェアアーキテクチャは、同社がNFC向けにゼロから開発したもので、特許を取得している。純正弦波を直接出力するので、低ノイズの出力波形を形成でき、その結果、外付けEMCフィルターなどが不要になり、整合回路を簡素化することが可能だ。コンポーネント数が少ないので、システムの小型化やBOMの削減にもつながる。さらに、高精度な波形成形が可能なので、EMVCoやNFC Forumの認証取得が容易になる。
Panthronicsのハードウェアアーキテクチャ。図版左上がPanthronicsの、左下が従来のハードウェアアーキテクチャである。波形の精度やコンポーネント数などに大きな差が見られる[クリックで拡大] 出所:ルネサス エレクトロニクス
VerificationとValidation(V&V)の環境も整っている。Panthronicsの製品は、高いレベルで自動化した手法でVerificationとValidationを実行できることが特長だ。競合のソリューションでは数週間かかる中、Panthronicsのソリューションはわずか数日で済むケースもある。
――ルネサスとPanthronics、両社の技術を掛け合わせる「ウィニングコンボ」として、どのようなソリューションを提供していく予定ですか。
Chittipeddi氏 NFC技術を活用するウィニングコンボは、大きく3つのカテゴリーに分けられる。POS、IoT、ワイヤレス充電だ。Panthronicsとこれまで協業してきた中で、POSとIoTのカテゴリーで既に数個のウィニングコンボをリリースしている。それらに加え、スマートロックや電子ロックシステム、TWS(True Wireless Stereo)イヤフォン充電クレードルといったアプリケーションに向けたウィニングコンボの提供を想定している。
――ルネサスのMCUファミリーのうち、PanthronicsのNFCソリューションと相性がいいのはどれでしょうか。
Chittipeddi氏 アプリケーションによってMCUかMPUを使うことになるのではないか。モバイルPOSではMCUで十分だが、固定POSではMPUを使うことになるだろう。ルネサスはMCUもMPUも豊富なポートフォリオを持っており、NFCアプリケーションに合わせて適切なMCU/MPUを提案できる。これも競合他社に対する強みになる。
NFC市場は、「参入しても勝負できる規模」
――NFC市場のトレンドと予測についてお聞かせください。
Chittipeddi氏 POSやIoT機器(NFCリーダーやドアロックなど)の市場規模は、年平均成長率20%で伸びていくとみられている成長市場だ。同様に、NFCワイヤレス給電も高い成長が見込める分野だ。これらの市場には競合が存在し、特にNXPとSTは長くNFC市場に君臨している大手メーカーだが、われわれが参入しても勝負できるほど十分な規模の市場があると考えている。
――IoT・インフラ事業部の2022年はいかがでしたか。2023年の見通しについてもお聞かせください。
Chittipeddi氏 2022年の業績は並外れてよかった。2023年は、民生機器市場はやや軟化していて、インフラ市場は、クラウド分野で設備投資を控えている様子がうかがえることなどから、2022年よりはスローペースになっている。とはいえ、産業機器もインフラも全体的に見れば市場成長はおおむね堅調に推移しているといえる。
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