投稿論文が激増した「VLSIシンポジウム2023」、シンガポール国立大が台頭:湯之上隆のナノフォーカス(62)(2/6 ページ)
2023年6月に京都で開催される「VLSIシンポジウム2023」。ようやく、本格的なリアル開催が戻ってくるようだ。本稿では、デバイス分野のTechnologyおよび、回路分野のCircuitsそれぞれについて、投稿/採択論文数の分析を行う。
地域別の投稿論文数
昨年2022年の記者会見のときから、TechnologyとCircuitsの合計の投稿論文数について、地域別のトレンドのグラフが示されるようになった(図2)。シンポジウム委員は、「同じ京都開催の2021年より30%論文数が増加した。また、アジア圏からの論文数が増大している。さらに、減少傾向が続いていた日本の論文数は、2017年の水準に戻った」と説明した。
筆者は、この図を見て「あれ?」と思った。それは、今までのトレンドでは、偶数年のハワイ開催の方が奇数年の京都開催より投稿論文数が多い傾向が続いていたが、2023年の京都開催の論文数が昨年2022年のハワイ開催より多かったことである。これは特に、Technologyの投稿論文数で顕著となるため、その原因については、Technology論文数の節で分析したい。
さて、図2のグラフでは、国や地域別の投稿論文数の推移がいまひとつ良く分からない。そこで、図2のデータを基に、地域別の投稿論文数の推移を、折れ線グラフで書き直してみた(図3)。すると、随分違った景色が見えてくる。
2006〜2010年頃までは、1位が米国、2位が日本だった。ところが、その後、日本の投稿論文数は急速に減少し、2021年にはシンガポールと最下位争いをする水準に低下した。2023年にやや持ち直したものの、2006年の3分の1以下にとどまっている。
一方、圧倒的な投稿論文数を誇っていた1位の米国も、上下動しながら減少していき、2023年には、とうとう、韓国と中国に抜かれてしまった。
では、地域別の採択論文数はどうなっているだろうか?
地域別の採択論文数
図4に、地域別の採択論文数の推移を示す。なお、記者会見では、採択論文数の推移は示されないため、これは、今までの記者会見資料や手持ちの論文予稿集などのデータを集計して、筆者が作成したグラフである。
2005〜201年頃までは、米国と日本が1位を争っていた。ところが、2011年頃から日本の採択論文数が急減少し、2019年には過去最低の15件まで低下する。2023年は少し持ち直して26件まで回復したが、米国と1位を争っていたときの勢いはない。
その米国も、2012年の97件でピークアウトし、2023年には50件まで低下した。辛うじて1位の座は守ったものの、48件に急成長している韓国に抜かれるのは時間の問題であるように思われる。
冒頭で述べた通り、VLSIシンポジウムは、1980年代に、日米が創設し、ハワイと京都で隔年開催を続けてきた半導体の国際学会である。しかし、その主役の座は、日米から、例えば韓国などの地域へ移行しようとしている。少なくとも、日本はもはや主役とは言えない。
ここで、投稿論文数では、1位の韓国(131件)に次ぐ2位に躍り出た中国(130件)は、採択論文数では17件と振るわない。要するに採択率が悪いわけだ。この採択率については後述する。
次ページからは、TechnologyとCircuitsについて、それぞれ、投稿・採択論文数の分析を行う。
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