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次世代移動体通信「6G」を具現化する技術(後編)福田昭のデバイス通信(405) 2022年度版実装技術ロードマップ(29)(2/3 ページ)

前編に続き、「6G」を実現するために必要な要素技術を解説する。仮想化端末、メタサーフェス反射板、通信衛星などの技術を簡単に紹介していく。

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携帯端末の弱点を補う「仮想化端末」

 次は「(b)仮想化端末」」を簡単に説明する。スマートフォンや携帯電話端末などは、基地局と送受信する信号のデータ伝送速度が対称ではない。「下り」と呼ばれる基地局から端末への伝送速度は非常に高く、「上り」と呼ばれる端末から基地局への伝送速度が著しく低い。この非対称性はユーザーの使い方(ダウンストリーム中心)を反映しており、これまでは適切だと言えた。

 ただしユーザーが大容量のデータを連続して送信しようとすると、この非対称性は制約となる。また端末のハードウェアそのものが、大容量のデータ送信には向いていない。端末は携帯性を維持するため、大きさと重量が制限されている。大容量のデータ送信はバッテリーの激しい消耗を招く。バッテリー容量の拡大は重量増となる。また大容量のデータ送信機能を備えることは、端末の寸法を拡大することになる。いずれも望ましくない。

 そこで端末が直接に基地局とやりとりするのではなく、端末に近接した複数のデバイスを介して複数の基地局と大容量のデータをやりとりする。これが「仮想化端末」のコンセプトである。端末に近接したデバイス(スマートメガネ、スマートウォッチ、PCなど)は伝送距離が極めて短いので、送信電力をあまり増やさずに大容量のデータを端末から送れる。それぞれのデバイスは端末が送信するデータの一部を基地局に送信する。

仮想化端末のコンセプト
仮想化端末のコンセプト[クリックで拡大] 出所:KDDI、「Beyond 5G/6G ホワイトペーパー」(2021年10月(2.0.1版))

海上、空中、宇宙の移動体通信を可能にする「衛星」システム

 既に述べたように、「6G」システムでは「あらゆる場所」での通信を可能にする「拡張性」が要求される。「あらゆる場所」とは、陸上では山間部やへき地、離島などの従来の移動体通信システムではカバーしにくかった場所、海上では船舶、空中では航空機などを含む。特に陸上以外の移動体通信ネットワークは「非陸上ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)」と呼ばれ、地理的な制約を受けないネットワークとして注目されている。

 これらの「拡張性」と「NTN」を支える要素技術の有力候補が「(e)「通信衛星」」である。人工衛星による放送サービスや通信サービスなどは既に商用化されている。今後は移動体通信システムとの連携が強く期待される。

 非陸上ネットワーク(NTN)および6Gシステムで利用可能な通信衛星には主に高度の違いから、以下の3種類がある。高度3万6000kmを周回する「静止衛星(GEO:Geostationary Orbit satellite)」、高度300km〜2000kmを周回する「低軌道衛星(LEO:Low Earth Orbit satellite)」、高度20km前後を飛行する「HAPS(High Altitude Platform Stations)」である。HAPSは高高度疑似衛星、高高度無人飛行機、高高度プラットフォーム、成層圏プラットフォームなどと呼ばれており、和文では複数の呼称が並立しているので注意されたい。

衛星やHAPSを用いる空・海・宇宙へのカバレッジ拡張イメージ
衛星やHAPSを用いる空・海・宇宙へのカバレッジ拡張イメージ。高度を上げるとカバー範囲は広がるが、通信に要する時間(伝搬遅延時間)が長くなってしまう[クリックで拡大] 出所:NTTドコモ、ホワイトペーパー「5Gの高度化と6G」(2022年11月(5.0版))

 GEOのカバー範囲は地上で半径1000km以上と広い。一方で伝搬遅延時間が片道だけでも120ミリ秒と長いので、低遅延を要求する用途には向かない。現在、既に移動体通信システムのバックホール(固定回線部分)に使われている。

 LEOのカバー範囲は地上で半径およそ数100kmとかなり広い。伝搬遅延時間は片道で数ミリ秒とかなり短い。現在既に、衛星携帯電話システムや衛星センシング(測定器による大気や地表などの観察)などに使われている。

 HAPSは低高度なので、伝搬遅延時間が片道で1ミリ秒未満とさらに短い。カバー範囲は半径50km前後である。通信衛星の中では最も注目を浴びている分野だ。例えば太陽電池モジュールを搭載したグライダーを移動体通信の臨時基地局として使うことが考えられている。

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