“大学城下町“構想で「企業は大学を活用して」:新規事業立ち上げや人材育成でも(1/2 ページ)
東京工業大学の副学長で産学官連携担当を務める大嶋洋一氏が、OMDIA主催のイベントで講演を行った。半導体業界の研究開発において大学のポテンシャルが十分に活用されていないことを指摘し、大学と企業が集い技術を発展させる「大学城下町」の構想など、産学連携のさらなる可能性について語った。
東京工業大学(東工大)副学長で産学官連携担当を務める大嶋洋一氏が2023年6月22日、OMDIA主催のセミナーイベント「Global Semiconductor Day Summer 2023」で講演を行った。同氏は、特許情報の分析などから、半導体業界の研究開発において大学のポテンシャルが十分に活用されていないことを指摘。大学と企業が集い技術を発展させる「大学城下町」の構想など、産学連携のさらなる可能性について語った。
特許情報から考える半導体分野での産学連携の現状
製品やサービスになる前の段階である研究開発の力は数値化しにくいが、特許情報を1つの指標とすることができる。大嶋氏は、20年以上にわたって特許庁に勤め、半導体関係の特許の審査を行っていた経験から、特許情報に基づいて世界および日本の半導体業界の動向を分析した。
現在、世界全体の半導体関連技術の特許申請数は増加傾向にあり、積極的な投資が行われている状態だという。この傾向をリードするのは米国と中国で、特に中国の伸び率は著しいという。日本の出願数は横ばいで、「世間で言われているほど衰退していないが盛り上がってもいない。ただし申請数の増加する米中と比較して、相対的な地位は低下していっている」と大嶋氏は述べる。
特許申請のうち出願人が大学であるものの割合、すなわち大学の貢献度は中国が10%を超え、2022年は4%弱だった米国、2%程度だった韓国やEUと比較して最も高い。日本は2%弱で横ばいとなっており、大嶋氏は「日本の大学は半導体分野の特許面での貢献度が低い。もっと大学を活用できる場面があるのではないか」と指摘した。
オープンイノベーション機構で「大学城下町」目指す
日本の産学連携での研究の傾向として大嶋氏は「個人レベルの共同研究が多い」「大学側からの技術シーズ提供型が多い」「コロナ禍やウクライナ危機といった環境変化を踏まえ、自前主義から転換しようという動きがある」「長期的な研究開発が多い」「成果そのものより共同研究を通じた人材育成に力点を置いたものが多い」と説明した。
こうした傾向を踏まえ、さらに大学の力を生かすための方策として大嶋氏は東工大が創設した「オープンイノベーション機構」や、そこで目指す「大学城下町構想」について述べた。
オープンイノベーション機構は、企業同士で行ってきた「自前にこだわらず外部と連携する」というオープンイノベーションの取り組みに大学も参加し、大学の持つ強みを生かそうというもの。個人レベルにとどまらず組織レベルでの共同研究を支援する場だといい、「大学は多くの企業と対等な関係を築いている。企業のみでなく大学を含めて連携することで、大学をハブにしたエコシステムを構築しやすい」(大嶋氏)という利点がある。
オープンイノベーション機構では、共同研究の事業化へのハードルを下げることができるという。技術シーズ提供型の共同研究では、大学が技術を提供しても中小企業ではマーケティングなどのリソースが足りずに事業化に至らない場合がある。大企業の場合も、自社の本業と異なる分野ではリソースやノウハウを活用しきれないことが多いという。大嶋氏は「こうした場面では大学と企業だけでなく、行政や他大学など、社会実装をサポートするステークホルダーと連携することが重要だ」と指摘し、オープンイノベーション機構がそのネットワーキングの役割を果たすことができると説明した。
オープンイノベーション機構が目指すのは大学城下町の実現だ。大学城下町は、特定の大企業を中心に地域が発展する「企業城下町」を基にしたアイデア。企業城下町では、自動車や電気機器など製造するものがあらかじめ決まっているところに必要な要素が集まって都市を構成する。しかし「『何を作ったら良いか分からない』という現代では、企業城下町のやり方は難しい」(大嶋氏)という。対して大学城下町の考え方は、最先端の研究が行われアイデアの源泉ともいえる大学を中心にステークホルダーが集結して事業を行い、町が作られていくというもの。大嶋氏は想定される研究から事業化への流れとして「大学の研究を起点にスタートアップがPoC(Proof of Concept)やプロトタイプを作り、大企業が量産する」という例を挙げた。
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