弱きを助けるよりも強きに頼れ! ―― 実現性の高い日本の半導体・デジタル産業戦略とは:大山聡の業界スコープ(67)(1/2 ページ)
経済産業省は2023年6月6日に「半導体・デジタル産業戦略」の改定を取りまとめ公表した。その内容を見ながら、実現性の高い日本の半導体・デジタル産業戦略について考えてみたい。
経済産業省は2023年6月6日、日本の半導体、情報処理基盤、高度情報通信インフラ、蓄電池などの産業に関して今後の政策の方向性を定めた「半導体・デジタル産業戦略」の改定を取りまとめ、274ページに渡る膨大な資料を公表した。本戦略は「具体的プロジェクトを進めることで現実を変えることが目的である」とし、半導体・デジタル産業を取り巻く状況、政府の実施状況、目指すべき方向性、などについて述べられている。筆者としても、方向性や重要性については経産省に賛同する一人だが、進め方や戦略については必ずしも賛同していない。今回は、その辺りについて述べてみたい。
目立つ現実とのギャップ
経産省は本戦略の「個別戦略」として、半導体分野、情報処理分野、高度情報通信インフラ分野、蓄電池分野、について目指すべき方向性について述べている。
まず半導体については、現在5兆円にとどまっている国内半導体生産を、2030年に15兆円まで拡大させるとしている。
TSMCの熊本県への工場誘致やRapidusの設立など、経産省は積極的な政策を展開している。だが、この目標設定は現実感が乏しいと言わざるを得ない。世界半導体市場は、2030年には100兆円を超える規模に成長しているだろう。この点を踏まえると「国内生産では15%くらいのシェアを維持したい、そうすれば2015年当時までのシェアに回復できる」という狙いがあるかもしれない。ただ、得意だったメモリ事業で韓国や米国のメーカーに敗退し、これをどう巻き返すのか。もともと不得意だった先端ロジックでシェア拡大を狙えるのか。そもそもこれだけの生産規模を実行する人材をどうやって確保するのか。公表された資料には「やるべきこと」が詳細に記述されているが、読めば読むほどハードルが高いと感じる。現実とのギャップを意識せざるを得ない。無理に設定すべき目標とは思えない、というのが筆者の率直な感想である。
ちなみに資料では、パワー半導体やアナログ半導体の強化についても言及し「国内での連携・再編を図ることで、日本全体として競争力を向上する必要がある」と述べている。しかし、その連携・再編が極めて困難であり、実現に至っていないのが現状である。資料に書かれていることは極めて正論だが、どうやって実現するのか、というイメージが沸いてこない。次世代半導体の設計人材育成についても記述があり、大学や研究機関との連携方法についても正論が述べられている。電気・電子分野に進もうとする学生が減少し続けていることを考えると、やはり現実とのギャップが目立ってしまう。
情報処理分野については、量子コンピュータへの取り組み、生成AIの開発、人材育成などの戦略が述べられている。高度情報通信インフラ分野については、データセンタの整備、オープンRAN(Radio Access Network:無線アクセスネットワーク)への取り組みなどの戦略がまとめている。筆者はいずれの分野も門外漢であり、半導体戦略に対してのような「突っ込み」を入れることはできないので、ここで私見を述べることは割愛させていただく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.