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弱きを助けるよりも強きに頼れ! ―― 実現性の高い日本の半導体・デジタル産業戦略とは大山聡の業界スコープ(67)(2/2 ページ)

経済産業省は2023年6月6日に「半導体・デジタル産業戦略」の改定を取りまとめ公表した。その内容を見ながら、実現性の高い日本の半導体・デジタル産業戦略について考えてみたい。

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弱くなったので補助金を出すという発想

 蓄電池分野については、2030年までに国内でリチウムイオン電池製造150GWh、グローバルで同600GWh(世界シェアの20%)、そして全固体電池の本格実用を目指す、としている。かつてはソニーあるいは三洋電機といった日系企業がトップシェアを誇っていた分野だが、クルマの電動化でEV市場が急速に立ち上がりつつある現在、日系企業のシェアは大きく減退してしまった。日系トップのパナソニックが8%前後の世界シェアを維持しているが、中国や韓国の電池メーカーの積極的な投資戦略に追随できず、現在のシェアを維持することも困難になりつつある。その流れを食い止めるためにサポートしよう、補助金を出そう、という判断なのだろうが、筆者にはこの考え方に強い違和感を持ってしまうのである。

 ストレートに言えば、強かった分野が弱くなった、だから補助金を出そう、という発想に賛同できないのだ。なぜ弱くなったのか、という原因を突き止めずに補助金でサポートする、というのは発想としていかがなものか。原因も追及せずにサポートだけを続けると、ますます弱体化したり、健全な市場形成ができなくなったりするのではないか。こんな疑問を持つのは筆者だけではないだろう。

民間企業を「その気」にさせることが肝心

 筆者は本連載で2022年9月に「不況期に向かう今、日本の半導体産業の『あるべき姿』を考える」という記事を書いた。ここでは、経産省が打ち立てる半導体関連政策に対して「明確なコメントを述べる半導体経営者がほとんど存在しない」「メディアが半導体のことを取り上げても、業界トップからの反応は全くといって良いほど見られない」という経産省と民間企業のギャップを指摘した。実際にプレーする民間企業の同意が得られない状態では、経産省がどれだけ正論を唱えても意味がない。民間企業を「その気」にさせるにはどうすべきかを考えるべきだ、というのが筆者の主張である。

 なお、その記事では電子部品メーカーを主体としたフォーメーション、半導体製造装置メーカーを主体としたフォーメーション、機器メーカーのシステムノウハウをベースにファブレスを育成するフォーメーションなど、筆者の思い付きの延長のようなアイデアを述べた。いずれも実行に移すにはまだ多くの課題があると思われる。しかし、日本の強みである電子部品や半導体製造装置を主体に考えることで、もっと現実的で具体的な戦略を立案することができるだろう。かつて「システムLSI」という実体のない言葉に振り回されて具体的な戦略を立てられなかったことを反省し、「機器メーカーのシステムノウハウをどうやって半導体に落とし込むか」を考えれば、ユーザーが求める半導体戦略の具体化が可能になるかもしれない。

 正論や理想論を述べることを否定するつもりはないが、民間企業に具体的な行動を起こさせることがより重要である。すでに世界市場に君臨している強い電子部品メーカーをサポートする必要などあるのか、という意見もあるかもしれない。しかし、強い企業により多くのヒト・モノ・カネを集め、より強い推進力を持たせることで、ここに世界中の需要や情報が集まるような仕組みを作ることができるはずである。弱体化した半導体をサポートするより、強い電子部品の推進力をパワーアップさせた方が、世界からの注目度も高まるだろう。

 Rapidusの設立についても、世間からは厳しい指摘の方が圧倒的に多いようだ。日本国内に独立系のファウンドリー(半導体受託製造企業)を設立させることは、日本半導体業界の長年の夢だったのである。筆者としてもこの設立には大賛成だが、2nmの実現にこだわる戦略には異を唱えたい。世の中のファウンドリー顧客が喜ぶような実現性の高い戦略を重要視するなど、より現実的な経営を目指すことで、多くの理解者や協力者が得られるようになる、と確信している。

連載「大山聡の業界スコープ」バックナンバー

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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