自動運転の成功の鍵は「あまり遠くを見すぎないこと」:現実的なところから始めるのが、結局は近道に(2/3 ページ)
完全な自動運転――。その響きは魅力的ですが、その実現には依然としていくつものハードルがあります。では少しでも実用化に近づくにはどうすればいいのでしょうか。その答えは「遠くを見すぎないこと」です。
自動車メーカーの「過ち」
現在の自動運転メーカーが犯している過ちは、すぐにでも自動運転が普及するかのように思わせて、実情にそぐわない期待値を設定してしまっていることです。自動車メーカー各社は、完全な自動運転を実現するには複雑かつコストのかかる問題が山積していることを認め、現時点で入手可能な技術を使って実現できるシナリオにフォーカスする必要があるのではないでしょうか。
自動運転は「オール・オア・ナッシング」の世界ではありません。既存のテクノロジーは十分に素晴らしく、有用で、価値があります。ですが、現在想定されている完全装備の自動運転ソリューションにとっては、まだ不十分です。従って現時点での最善の答えは、「まだ見込みがあるレベル4の自動運転を高速道路で実現し、そこから次につなげていくこと」です。
そもそもこれは、ニューヨークからロサンゼルスまで完全自動モードで走行するという、いまだ実行されていないイーロン・マスクのアイデアでした。あなたの自動運転車でサンフランシスコのベイエリアを出発し、映画を見たあとぐっすり寝て、目覚めるとラスベガス郊外の駐車場に着いていた――。そんな場面を想像してみてください。“完全な自動運転車”であれば、こんな夢のようなことが実現可能なのです。
ですが、現実的には、走行しやすい高速道路の環境を離れるやいなや、いまだ解決されていない問題が生じてきます。高速道路という限られた範囲では予測も容易ですが、それ以外の場所では多くの予測不要な環境因子が、自動運転を極めて困難なものにします。
典型的な日常のユースケースでは、市街地における多目的自動運転シナリオは今のところ実現不可能です。運転者の操作と自動運転車の組み合わせによる市中での走行は、単純に現在のテクノロジーとインフラでは解決できないほど複雑なのです。市中における多目的の完全自動運転を実現するには、自動車メーカーが国や地方自治体と密接に協力し合い、道路とインフラを整備してスマート・シティーを建設する必要があります。例えば、スポットライトと車載エレクトロニクスをリンクさせて協調的に機能させるなど、安全な市中走行を実現するための方策を官民一体となって打ち出していかねばなりません。言い換えれば、市中での自動運転を実現させるには街を設計し直さなくてはならないということです。
スマート・シティーが増えてくれば、当然ながらセンサーやエレクトロニクスの需要も増え、半導体業界はその恩恵を受けることでしょう。自動運転インフラ技術市場は、自動運転車そのものの市場より大きくなる可能性すらあります。コネクテッドカーと関連インフラの建造にはかなりの時間を要します。その安全性、効率性、利便性、経済性の高さを思えば、いずれそれが実現されることに疑問の余地はありません。しかしながら、移動手段の完全自動化に向けた取り組みは、長くかかることが予想されます。恐らく20年以上の長丁場になるでしょう。
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