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史上最悪レベルの半導体不況に回復の兆し、生成AIという新たな“けん引役”も湯之上隆のナノフォーカス(65)(3/5 ページ)

“コロナ特需”から一転、かつてないレベルの不況に突入した半導体業界だが、どうやら回復の兆しが見えてきたようだ。本稿では、半導体市場の統計や、大手メーカーの決算報告を基に、半導体市場の回復時期を探る。さらに、業界の新たなけん引役となりそうな生成AIについても言及する。

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PCの四半期ごとの出荷台数

 図9に、四半期ごとのPCの出荷台数を示す。PCの出荷台数は、2011年Q3に約9500万台でピークアウトする。その後は、上下動しながら、急激に出荷台数が減少する。これは、米Appleが2007年にiPhoneを発売し、2010年頃から本格的なスマホの時代を迎え、そのスマホがPCを駆逐していったからである。

図9 四半期ごとのPC出荷台数と対前年成長率(〜2023年Q2)
図9 四半期ごとのPC出荷台数と対前年成長率(〜2023年Q2)[クリックで拡大] 出所:Gartnerのデータを基に筆者作成

 ところが、2020年にコロナの感染が拡大すると、PC出荷台数が急増し、2021年Q4にはピーク時に迫る9100万台を出荷する。これは、冒頭で述べたように、コロナ禍でリモートワーク、オンライン学習、ネットショッピングが爆発的に普及し、PC需要が急拡大したからである。しかし、そのコロナ特需も2022年に入ると急速に終わりを迎え、出荷台数が急降下する。

 結局、PCの出荷台数は、2020年から2021年にかけて一時的に増大しただけであり、その特需を除けば、2011年から2018年にかけての下降曲線の延長線上で、今後の出荷台数は推移するだろう。つまり、スマホに駆逐されたPCは、もはや世界半導体産業のけん引役にはなれないと言える。

 では、スマホがけん引してくれるのだろうか?

スマホの四半期ごとの出荷台数

 図10に、四半期ごとのスマホの出荷台数を示す。スマホの出荷台数は、2010年以降に急成長した。ところが、その成長は2014年以降に鈍化し、2016年Q4に4億3000万台でピークアウトする。その後、緩やかに出荷台数が減少し、2020年のコロナ特需でやや持ち直したものの、その特需はあっという間に終わりを迎え、出荷台数が急速に減少している。

図10 四半期ごとのスマホ出荷台数と対前年成長率(〜2023年Q2)
図10 四半期ごとのスマホ出荷台数と対前年成長率(〜2023年Q2)[クリックで拡大] 出所:IDCのデータを基に筆者作成

 スマホのビジネスが消滅することは無いだろうが、スマホは低成長の電子機器になってしまった。従って、スマホにも、世界半導体産業をけん引する力は無いだろう。

 それでは、スマホは、最先端の半導体のテクノロジードライバーとしてなら、期待することができるだろうか?

「iPhoneの終わり」の始まり

 図11に、四半期ごとの企業別スマホの出荷台数を示す。2012年以降、おおむね出荷台数1位はSamsungである。しかし、そのような中で、Appleが極めて特徴的な出荷台数の挙動を示している。毎年、第4四半期に巨大なピークがあるからだ。

図11 四半期ごとのスマホ出荷台数と対前年成長率(〜2023年Q2)
図11 四半期ごとのスマホ出荷台数と対前年成長率(〜2023年Q2)[クリックで拡大] 出所:IDCのデータを基に筆者作成

 この現象については、拙著「「ムーアの法則」は終わらない 〜そこに“人間の欲望”がある限り」で詳述した。ここでは簡単に、その概要を振り返る。

 Appleは毎年秋に新型iPhoneを発表し、米国における12月のクリスマス商戦で1億台以上のiPhoneを販売したいと思っている。だから、毎年四半期に大きなピークがあるのだ。

 この計画に合わせて、Appleから生産委託を受けているTSMCは、毎年Q3までに、最先端プロセスでiPhone用プロセッサを1億個以上量産しなければならない。TSMCの売上高の25%以上がAppleであるから、これは死守しなければならない至上命令である。

 そして、毎年AppleのiPhone騒動が終わったら、やっと、その最先端プロセスで、AMDのMPUやNVIDIAのGPUをつくることができるというわけである。

 つまり、TSMCが狂気的な速度で世界最先端の微細化を独走しているのは、米国のクリスマス商戦に原因があると言える。ということは、Appleが毎年12月にどれだけ大量に新型iPhoneを売るか、はたまた米国人がその新型iPhoneを買う気になるかどうか、ということにかかっているわけだ。

 従って、TSMCによって推進されている現在のムーアの法則は、“人間の欲望の法則”であると言える(もっと正確に言えば、米国人の欲望?)。

 ところが、TSMCの最先端の微細化を推進する原動力となっているAppleのiPhoneの第四半期の出荷台数に陰りが見える。コロナ禍の2020年Q4は過去最高の9000万台超を出荷した。しかし、2021年Q4は8490万台、2022年Q4は7230万台と、第四半期の出荷台数が急速に減少している。

 もし今後もこの傾向が続くようなら、TSMCは、AppleのiPhone用プロセッサのために、毎年、世界最先端プロセスを開発しなくなるかもしれない。となると、iPhoneは今後、最先端半導体のテクノロジードライバーの主役の座から降りることになる。

 では、今後は何が半導体のテクノロジードライバーになるのか? また、PCやスマホに代わって、世界半導体産業をけん引するのは一体何か? 筆者は、ChatGPTなどの生成AIに使われるAI半導体が、その主役であると予測する。

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