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インタビュー

国内5G発展の鍵は「Massive MIMO」 エリクソン社長米中韓台に後れを取っている(2/2 ページ)

2020年3月、日本国内で5G(第5世代移動通信)関連サービスの提供が開始された。約3年半が経過し、日本国内の人口カバー率は96.6%(2022年末時点/総務省)と拡大した一方で、「日本の5G技術は遅れている」との見方も多い。世界と比較した国内5Gの現状や課題について、エリクソン・ジャパン 社長の野崎哲氏と、同じく社長のLuca Orsini氏に聞いた。

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Massive MIMO普及に向け、独自のASICを開発

――日本でのMassive MIMO普及に向けたエリクソンの取り組みを教えてください。

Orsini氏 エリクソンは、Massive MIMO無線機の小型化と軽量化に取り組んでいる。当社が開発した新しいアンテナ一体型無線機は、トランシーバーを32個搭載していても、重さが12kgで容量23L(リットル)と、初期の約60kgの無線機に比べて大幅に小型化、軽量化することに成功した。

 当社は、何年にもわたり大幅な投資を行い、独自のASICを開発したことで小型化/軽量化を実現した。このASICは、Massive MIMOにおいて、ビームフォーミングやビーム制御のための処理を担う。こうした処理には、ASICではなくFPGAを使うメーカーも多い。FPGAを使えば、低コストかつ短期間で開発できるが、やはりきちんとASICを開発した方が、処理性能や消費電力の点で優れた無線機を実現できる。無線機用のASICを独自に開発している通信機器メーカーは多くない。

Ericssonが開発したASIC
Ericssonが開発したASICは、コンピューティング装置ではなく、Massive MIMO無線機の方に搭載されている。それにより、高い性能を引き出すことができるという[クリックで拡大] 出所:Ericsson

――日本のデータ通信は、Massive MIMOの活用でどう変わるのでしょうか。

野崎氏 日本の通信量は、総務省によると2020年から2030年までの10年間で14倍、平均すると3年で2倍に増える予想だ。Massive MIMOを活用すると、この通信量の増加にも対応できるようになる。

 エリクソンは、東京・渋谷のデータ通信量の変化と、Massive MIMOの使用有無による通信速度の違いについて独自のシミュレーションを行った。シミュレーションでは、渋谷中心部の基地局間距離を150m、アンテナを設置しているビルの高低差を10〜72m、基地局は3セクターでアンテナを設置したと仮定した。

 シミュレーションの結果、現状のデータ通信量であればMassive MIMOを使用せずに一定の通信速度を担保できるが、データ通信量が2倍になった場合は、Massive MIMOを使用しなければ、通信速度が10Mビット/秒(bps)を下回る場所が出てくることが分かった。同条件でMassive MIMOを使用した場合は、600Mbpsまで改善できることが分かった。

通信事業版の「Apple store」を作る

――今後の事業戦略について教えてください。

Orsini氏 Ericssonは、通信関連のアプリ開発者向けのコミュニケーションプラットフォームの提供を目指す。当社は2022年7月、Vonage Holdings(以下、Vonage)を買収し、同社が所有していた100万人以上の開発者を含むグローバルな開発者コミュニティーを手に入れた。同プラットフォームでは、通信事業版の「Apple store」「Google Play」のような、利用者がアプリ開発者の開発したサービスにアクセスしやすい環境を整える。

――エリクソンは、日本でどのような役割を担っていくのでしょうか。

野崎氏 エリクソンは、1985年に日本に進出してから約40年間、日本国内での事業規模を拡大するだけでなく、より深く日本社会に貢献するためにパートナー企業や団体との連携を強化してきた。今後も、新しいユースケースやソリューションを提案し、信頼を獲得していきたい。

Orsini氏 日本の5Gは、残念ながら遅れていると言わざるを得ない。エリクソンは、日本政府に対しては、世界の5Gの動向を共有し、時にコンサルタントのような立ち位置で日本の5Gの発展を推進していく。当社の顧客に対しては、企業向け/開発者向けのアプリケーションを提供し、顧客の収益最大化に取り組む。そして、日本国民に対しては、重要なインフラである通信技術を提供し、デジタル化を支えるという義務をしっかり果たしていく。

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