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デジタル世界でもう一度、ALS患者の体を動かせる仕組みを開発「もう一度体が動くならDJをやりたい」(1/2 ページ)

もう一度体が動くならDJ(ディスクジョッキー)をやりたい――。1人のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の願いをかなえるべく、Dentsu Lab Tokyo、NTT、WITH ALSは、筋肉を動かそうとする脳からの電気信号「筋電」を使って、デジタル世界で身体性を取り戻す仕組みを開発した。

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 Dentsu Lab Tokyo(以下、DLT)、NTT、WITH ALSは、筋肉を動かそうとする際に脳から発信される電気信号「筋電」を使って、デジタル世界でもう一度身体性を取り戻すことを目指すプロジェクト「Project Humanity」を立ち上げ、実現するための技術も開発した。

 WITH ALSは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の認知/理解促進を目指す団体で、自身もALSと共生している武藤将胤氏が代表を務めている。

 ALSとは、運動をつかさどる神経が障害を受け、徐々に全身の筋肉が動かなくなっていく難病だ。ALSの進行によって運動障害の他、コミュニケーション障害や嚥下(えんげ)障害、呼吸障害を引き起こし、最終的には、延命のために人工呼吸器の装着が不可欠になる。有効な治療法は確立されておらず、発症後の平均余命は、個人差が大きいものの、3〜5年といわれている。患者数は世界で約40万人、日本国内では約1万人だ。

 Project Humanityは、2023年9月にオーストリアで開催された「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」で発表された。同年10月25日には、日本国内でメディア向けの説明会兼体験会が開かれたため、筆者も体験してきた。

「Project Humanity」を活用してDJをしている様子
「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」(2023年9月/オーストリア)で撮影されたProject Humanityを活用して武藤氏がDJをしている様子[クリックで拡大] 出所:DLT

指先を「ピクッ」と動かすだけで、アバターの操作が可能

 Project Humanityは、筋電を使ってアバターを操作する取り組みだ。アバターの操作は、使用者が自分の意志で筋肉を動かせる部位に筋電センサーを装着して行う。筋電センサーが感知した微弱な生体情報(筋電)を、アバターの操作情報(手を振る、歩く、ジャンプするなど)に変換し、アバターに反映する。アバターへの操作情報の反映は、筋電の強さに関係なく、センサーが筋電を感知したかどうかで判断/実行している。操作情報は、一度入力すれば3秒間実行されるように設定しているため、力を入れ続ける必要はない。感知に必要な筋電は、利用者の安静時の筋電を基に調整するが、「指先が一瞬ピクッと(約2mm)動く程度でも検知可能だ」(DLT担当者)という。

 メディア向け説明会で披露されたProject Humanityは、武藤氏用にカスタマイズされたものだ。DLT担当者は「武藤氏は『もう一度体が動くならDJ(ディスクジョッキー)をやりたい』という願いを持っていたため、DJ仕様にカスタマイズした」と説明した。

 武藤氏は、首/手首/足首で筋電を感知できるため、筆者を含む実際に体験した記者は、首の左右、手首の左右、足首の左右の6カ所に筋電センサーを装着した。アバターの動作は、手を振る/手を上げる/ジャンプする/拍手する/歩くなど、DJとしてパフォーマンスをする際に使用する6種類が設定されていた。

 体験会の様子。首の左右、手首の左右、足首の左右の6カ所に筋電センサーを装着している
体験会の様子。首の左右、手首の左右、足首の左右の6カ所に筋電センサーを装着している[クリックで拡大]

 アバターの動作を、より人間に近い自然な動きにするために、健常者の動作(ジャンプや拍手など)をあらかじめ撮影し、データ化しておく。そして、それらのデータを、センサーを装着した位置とひも付け、「この位置のセンサーが筋電を感知したら、アバターがこの動作をする」といったように設定しておく。例えば、右足のセンサーを「ジャンプ」、左腕のセンサーを「拍手」として設定した場合、右足を動かすとアバターがジャンプし、左腕を動かすと拍手する。

「Project Humanity」の動作デモ。動画奥のモニターに映る青白い人型がアバター

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