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デジタル世界でもう一度、ALS患者の体を動かせる仕組みを開発「もう一度体が動くならDJをやりたい」(2/2 ページ)

もう一度体が動くならDJ(ディスクジョッキー)をやりたい――。1人のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の願いをかなえるべく、Dentsu Lab Tokyo、NTT、WITH ALSは、筋肉を動かそうとする脳からの電気信号「筋電」を使って、デジタル世界で身体性を取り戻す仕組みを開発した。

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筆者も体験、これが意外と難しい

 筆者は、週5日のペースでジムに通っていた時期があったため「意図した筋肉だけを動かすなんて、楽勝でしょう」と体験前には思っていた。しかし、操作を試みると、これが意外と難しい。動かしたい筋肉以外にも力が入ってしまったり、慎重になりすぎて全然動かなかったり、感覚をつかむまでに少し時間がかかった。

 DLTの担当者は、アバターの操作について「健常者は、筋肉を動かす場合、他の筋肉も連動して自然と動いてしまうため、それがノイズになることがある。対して、ALS共生者は、動かせる筋肉が限られているため、思い通りにアバターを動かすことができる傾向にある」と説明した。

 慣れると、頭を使わず感覚的に操作できるようになった。操作の感覚は、音楽を聴いている際、手や足でリズムを取る動きに似ていると感じた。自分のリズムに合わせた小さな動作が拡張され、アバターが代わりに大きな動作をしてくれる。新型コロナウイルス感染症の影響で発声や動作が制限されていた時期のアイドルやアーティストなどのライブで、体は動かせないけれど、心の中では飛んだり、跳ねたり、叫んだりしていた頃のイメージが近いと感じた。

体験する筆者。両手に力を入れたため、アバターも両手をあげている
体験する筆者。両手に力を入れたため、アバターも両手を上げている[クリックで拡大]

テクノロジーの力で、障がいの有無に関わらず輝ける社会を

 Project Humanityは、ALSだけでなく、他の疾患で体の自由が利かない人や、事故や加齢で車いすを使用している人など、さまざまな人への応用が期待できる。現実の映像と組み合わせることで、病床にいながら世界中を“自分の足で”旅することができるかもしれない。筆者は全体を通して、テクノロジーの力で、障がいの有無に関わらず輝ける社会を実現する、とても夢のある取り組みだと感じた。

 Project Humanity立ち上げの背景について、DLTの担当者は「武藤氏との出会いは東京パラリンピック2020(以下、東京パラ大会)だった。正直、それまでは、健常者は与える側として新しい技術を開発し、障がい者は受け取る側として開発された技術の恩恵を受けるものだ、という考えを持っていた。しかし、東京パラ大会で、障がい者と健常者が一体となって特別なステージを作る中で、『障がい者は、体に障がいを持っていても、頭や心の中にはすごく面白いアイデアをたくさん持っている』ということを心から実感した。それを引き出せるような仕組みを開発できれば、社会がより豊かになるのではないかと思い、Project Humanityを始めた」と語った。

 NTTの担当者は「テクノロジーを活用することによって、障がいの有無に関わらず、人や社会がより豊かなものになるような研究を目指している。今回であれば、武藤氏と一緒に研究することで、研究室では得られない新しい知見を得られた。今後は、さらなる研究の進展と、社会への還元を目指して取り組みを進めていく」と述べた。

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