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「日本のコロナ史」を総括する 〜5類移行後の答え合わせ世界を「数字」で回してみよう(70)番外編(4/11 ページ)

日本ではきっちり2020年に始まった、「新型コロナ史」。さまざまな情報が錯綜し、何を信じてどう行動すればいいのか分からないまま3年間以上を過ごし、2023年5月、ついに日本でCOVID-19の扱いが「5類感染症」に移行しました。今回、コロナの感染が日本で始まった当初から、感染拡大やワクチンについてさまざまな考察を行ってきた「エバタ・シバタコンビ」が、5類移行をへて、これまでの考察を振り返り、当初の予測の「答え合わせ」を行います。

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マスクに関する私たちのアドバイスは適正なものであっただろうか?

 結局、マスクはどれくらい役に立っていたのでしょうか。この疑問について、3つの報告2つの経験則を示して総括の代わりとします。

 まず紹介するのはNature誌に掲載されたマスクの予防効果の報告です。これによれば、マスクは実効再生産数をざっくり3分の1程度に減らす効果があった、とあります。

[江端コメント]:つまり、R0が1.0以上であったとしても、R0が3.0以下であれば、感染拡大を抑制することができた、ということです。これはすごい効果と言えます。

 もう一つはフィンランドからの報告です。こちらはマスクを義務化した地区と義務化しなかった地区の小学校の新型コロナの流行状況を比較した結果ですが、この報告ではマスクの有無で流行状況に差は認められませんでした

 同じく学区を研究対象としたボストンからの報告では、逆にマスク着用によって感染数を減らすことができた、と報告されています。フィンランドからの報告との違いは、小中学校を対象とした研究だったという点です。

 ここからは報告ではなく経験則となりますが、日本において医療従事者が専用のマスク、ガウン、フェースガード、手袋を適切に着用した場合、新型コロナ感染患者を診療および看護しても、新型コロナ専用病棟のスタッフにはほとんどクラスターは発生しませんでした

 最期に、もう一つの経験則です。マスクその他の一般的感染防護対策を徹底していた時期にはインフルエンザは全く(誇張なく、本当に全く)流行しませんでしたが、感染防護対策が緩み始めた昨シーズンからは、インフルエンザの流行が再び始まりました。

 結論としては、私はマスクには飛沫感染を防ぐ効果があると信じます。そして、新型コロナにおいては、恐らく集団としてマスクを着用すれば再生産数を3分の1程度にするというNature誌の報告は、大きく外れていないと思います。

 マスク着用(方法や質を含む)をもっと徹底すればもう少し抑え込む力はあるはずですし、逆に小学生など基本的感染防御が徹底できない場合や質の悪いマスクでは効果は半減、もしくは消滅します。

 ただし、現在、オミクロン以降の新型コロナウイルスの基本再生産数R0は麻疹(はしか)と同等かそれ以上と推計されるため、マスクという1つの係数だけで実効再生産数を1未満にできないことも事実です。

 総括としては、実効再生産数Rtを低下させるためのさまざまな係数(対策)のうちの一つとして、新型コロナ流行初期、特にワクチン以前の段階において、マスクは感染防御の重要な要素の一つであったと結論します。そして、医療機関においては現在でも、マスクは感染予防対策として重要な意味を持ち続けています。

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