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「日本のコロナ史」を総括する 〜5類移行後の答え合わせ世界を「数字」で回してみよう(70)番外編(5/11 ページ)

日本ではきっちり2020年に始まった、「新型コロナ史」。さまざまな情報が錯綜し、何を信じてどう行動すればいいのか分からないまま3年間以上を過ごし、2023年5月、ついに日本でCOVID-19の扱いが「5類感染症」に移行しました。今回、コロナの感染が日本で始まった当初から、感染拡大やワクチンについてさまざまな考察を行ってきた「エバタ・シバタコンビ」が、5類移行をへて、これまでの考察を振り返り、当初の予測の「答え合わせ」を行います。

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医療現場は”崩壊”していたのか?

 実は、「医療崩壊」の定義がそもそも存在しません。

 厚労省アドバイザリーボードの議事録に「なにをもって医療崩壊とするのか」とかんかんがくがくあり、それ以降結論を見つけられませんでした。定義を行うと、明確に「医療崩壊した」という事実が残ってしまうので政府としては曖昧にしたかったのではないかな?と勘繰っていますが、真相は不明です。

 振り返ってみて、日本はなんとか乗り切った……というのが私の印象です。ただし、保健所については、一部地域の負荷は一時期、限界を超えていました。また、近隣に応援を頼めず、観光などで外部からウイルスが流入しやすかった沖縄についても綱渡りの状況だった時期が多くありました。

 指標としては、病床使用率が参考になると思います(参考)。


画像はイメージです

 東京において2021年1月(前記の年表、ご参照)、一時的に重症用ベッドが使用率100%を突破しました。ECMO(体外式膜型人工肺)が足りず、治療できずに亡くなる人が出るのではないかと危惧される状況は、幸いにその1回だけでした

 それ以外に病床使用率が100%を超えることは全国的にありませんでしたが、一般・重症のどちらかの病床使用率が8割を超えることが、東京と大阪で2回、沖縄で4回ありました

 いずれもギリギリのところで緊急事態宣言による行動制限で実効再生産数を抑え込むことに成功しています。ただし、定期手術の延期もしくは中止、病棟でのクラスター発生と入院制限、救急車の到着時間遅延、医療介入の遅れによる死亡例などなど、各感染ピーク時に一般医療に相応の影響が出たことは確かだと思います。これを医療崩壊と呼ぶのであれば、医療崩壊は確かにありました

 しかし、超過死亡を大幅に押し上げるような、悲惨な形での壊滅的な医療崩壊は発生しませんでした。

 アメリカでは、2023年8月現在で死者117万人超、平均寿命は2.4年も短縮しています。途上国ではさらにひどく、各国の平均寿命の縮小幅はペルー5.6歳、グアテマラ4.8歳、パラグアイ4.7歳、メキシコ4.0歳、ロシア4.3歳などの数字があります(参考)。これに対し、日本の累計死亡は7万5000人ほどで、平均寿命の短縮も0.4〜0.5年程度に抑えられています

[江端コメント]:以下の図は、2021年10月段階での、各国死亡者数です。

 総括としては(政府に忖度したわけではなく)全体としては医療の崩壊と呼ぶべき状況は発生しなかったと結論します

 これは、緊急事態宣言や基本的感染防護の徹底などの呼びかけに対して、国民の皆様が真摯(しんし)に行動していただいたおかげです。医療関係者の1人として、感謝申し上げます。誠にありがとうございました。

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