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「日本のコロナ史」を総括する 〜5類移行後の答え合わせ世界を「数字」で回してみよう(70)番外編(6/11 ページ)

日本ではきっちり2020年に始まった、「新型コロナ史」。さまざまな情報が錯綜し、何を信じてどう行動すればいいのか分からないまま3年間以上を過ごし、2023年5月、ついに日本でCOVID-19の扱いが「5類感染症」に移行しました。今回、コロナの感染が日本で始まった当初から、感染拡大やワクチンについてさまざまな考察を行ってきた「エバタ・シバタコンビ」が、5類移行をへて、これまでの考察を振り返り、当初の予測の「答え合わせ」を行います。

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新型コロナの変異の「現在地」

 発見当初から、新型コロナは変異によってその性質を次々に変えていきました

[江端コメント]:2022年末のオミクロン株は、『これでようやく終わりの始まりか』と思った私たちに、衝撃を与えました(2023年年表、ご参照)

 総括にあたり、新型コロナの進化の現在地をお示しいたします。

 上記の図(参照)は以前にもご紹介したスパイクタンパク質*)の変異数系統樹です。

[江端コメント]:*)スパイクタンパク質とは、ウイルスの表面に存在し、ウイルスがヒト細胞に侵入する際に重要な役割を果たす部位で、一言で言えば、右図の「イボイボ」の部分です。この部分の形が、コロコロと変わって行くことを「変異」といいます。この部分が変わってしまうと、私たちの体の中にある抗体は、『こいつ誰?』と困惑してしまい、新型コロナウイルスを攻撃できなくなってしまうのです。


スパイクタンパク質のイメージ

 発見当初から現在に至るまで変異数はほぼ直線的に(若干加速しながら)増加し続け、その数は現在120変異を超えています。最新株であるEG5.1はエリスと名付けられ、注意すべき変異株(VOI)に分類されました。文献的考察は見つけられませんでしたが、個人的予測ではこの傾き(変異スピード)はしばらくこのままなのだろうな、という気がします

 国立感染症研究所の見解としては、「現時点では、オミクロンと総称される系統の中で、主に免疫逃避に寄与する変異が散発的に発生している状況である。そして、今後、病原性・毒性、感染・伝播性、ワクチン・医薬品への抵抗性、臨床像などに急激な変化が発生しないかどうかについて、迅速にリスクと性質を評価しつつ、継続した監視が必要である(シバタ要約)」とレポートしています(参照)。

 ラッキー(?)なことに、現在の変異は感染しやすさの方向で進化(機能獲得)が進んでいますが、上記レポートが示唆する通り、病原性・毒性に強く影響する変異が直近の変異株で起こっていないのは、実は「偶然」だったりします

 最初期にはクラスター管理により重症化症例を徹底して封じ込めて、すり抜けた無症候症例のウイルスだけが子孫を残すという状況でした。これは実質的に「人間社会を利用した弱毒株の選択的培養戦略」と言えます。しかし、現在は新型コロナが第5類感染症に定義され、ウイルスが自由に子孫を残せる状況です。過去を振り返ってみて、強毒株の排除という側面では、現在が最も脆弱な状況です

[江端コメント]:5類移行前は「毒性の弱いウイスルは見逃してやるぜ」という体制(クラスター管理)があったのですが、5類移行後は、それがなくなって「とってもヤバイ」ということですね。

 これまでの複数株へのワクチン接種、もしくは感染による免疫の蓄積が、病原性に影響する変異へのバッファーとして働くことが期待されています。しかし、まだ「新型コロナは既に普通の風邪になった」「これ以上の監視は不要である」という状況ではありません。

 理論上は「変異プールが出尽くして、長大な期間の中でその変異がループする状況が確認できる状況になり、その時点において重症化率と致死率が低率となった」という状況が確認できれば「普通の風邪」と言えるかと思います。その未来がどれくらい先になるのかは、まだ誰も分からないというのが現状です。世界の研究者達は、今も監視を続けています。

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