電磁波ノイズを高効率で電力に、ソニーが生んだ「業界初」環境発電ICの詳細:アンテナ開発のノウハウを活用(2/3 ページ)
テレビや冷蔵庫といった家電や産業用ロボットなどから常時発生する電磁波ノイズを利用し、高効率で電力を生成する環境発電用モジュールを、ソニーセミコンダクタソリューションズが開発した。今回、その技術の詳細を開発担当者に聞いた。
「業界初」の技術で、高い電力生成&安価で小型を実現
SSSが開発したモジュールは下図の通り、アンテナエレメントを2つ備えたダイポール構造アンテナの技術の応用によって実現したものだ。また、一方のアンテナを、冷蔵庫やロボットなど、ノイズの発生源である機器の金属部に取り付けることでアンテナの一部として活用。さらにもう一方のアンテナをグラウンド(アース)につなぐことで大きな電位差を生じさせ、「数ヘルツから100MHz帯までの低い周波数帯で非常に大きなエネルギーを取り込むことに成功した」(吉野氏)としている。
モジュールは、2つのアンテナのほか、電気への変換効率を高める整流回路(ダイオード)および、過充電防止回路というシンプルな構成となっていて、電池などの蓄電素子にそのまま出力可能となっている。構成する部品点数を抑えたことで安価かつ、サイズも7mm角、薄さは1.2mmという小型化を実現し設計の自由度を高めた。SSSは「高効率な電力生成を実現する本方式によるハーベスティング技術は、業界初」と説明。同技術に関し、2023年9月25日時点で14件の特許を出願しているという。
吉野氏は、「既存の振動や熱、光による環境発電は、エネルギーを電力に変換する素子が必要となる。電波も、放送波や無線LANに合わせたアンテナが必要だ。一方、われわれの開発品は非常にシンプルで、片方を機器の金属部、片方をグラウンドにつなぐだけで電圧が発生し、電力を収穫できる。専用の素子が不要でコスト的に大きくメリットがある」と語った。
さらに、ノイズの中でも低い周波数帯をターゲットとしたことで、従来の電波によるエナジーハーベスティング方式を大きく上回る、数十マイクロワット〜数十ミリワットという電力生成能力を実現したうえ、他のエナジーハーベスティング方式と異なり使用環境(光の明るさや室内環境など)に影響されることもなく、機器が通電されていれば待機時も含め常に安定した電力の収穫が可能となる。このため、幅広いユースケースに適応可能という。
吉野氏は、同モジュール開発の過程について「うまく整流できなかったり、また、当初はグラウンドを付けず開発を進めていたため、収穫電力の量が少し足りなかったりと、さまざまな課題があった。また、今回のような低い周波数帯を用いる研究は少なく、実験結果を基に理論に落とし込むという作業も多かった」などと説明。試行錯誤の結果、モジュールを完成させたとしている。
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