脅威的な低価格でEVシェアを広げる中国、今後10年は業界のけん引役に:停滞気味の米国とは対照的(2/3 ページ)
中国EVメーカーは、他の国々では考えられないような安価でEVを販売することで、今後10年間で、世界のEV業界をリードしていく立場になる見込みだ。米国EE Timesが複数の専門家にインタビューし、市場の展望を聞いた。
米国の販売代理店に山積するEV在庫
米国は中国とは異なり、EV需要が低迷している。米国の自動車ディーラーによると、米国ではEVの価格が依然として高額な上、充電インフラも散在しているからだという。ディーラー各社は2023年11月、米国のバイデン政権に公開書簡を送付し、国内EV製造を強化する規則の先延ばしを要請したところだ。
米国環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)は2023年5月、2030年に販売される新車の60%をEVにすることを求める規則案を発表した。これは、「2030年までに新車販売の50%をEVにする」という米国大統領令を上回るものだ。
米国インフレ抑制法(U.S. Inflation Reduction Act)は、EV購入に対して最大7500米ドルの税額控除を提供する一方で、2024年には、“懸念のある外国企業(中国を意味する)”が製造した電池部品を搭載するEVを、補助金の対象外とする予定だ。
米国の自動車ディーラーは公開書簡の中で、「現在では、売れ残ったバッテリー電気自動車(BEV)の在庫が急増している。大幅な値下げや、製造インセンティブ、政府による手厚いインセンティブなどがあっても、販売代理店に納入されるスピードに販売が追い付いていないからだ。大統領は今こそ、政府の非現実的なEV指令にブレーキをかけるべきだ」と述べている。
また書簡では、「米国はもっと時間に余裕を持って、電池技術の進展や、EVの低価格化、米国内での電池製造、充電インフラの構築などを進めていくべきだ」とも主張している。
Munro氏は、「米国が国内にEV電池サプライチェーンを構築するのは、10年先のことになるだろう」と予測する。
BYDおよび中国の小規模なライバル企業は、EV用電池のサプライチェーンの面でさまざまな強みを持っている。電池は、EVのコスト全体の40%を占める。またCATLやBYDなどの中国電池メーカーは、特許ポートフォリオの壁を築き、レアアースなどの主要材料の供給も確保している。
中国は、既存のICEVよりも多くの半導体を使用するEV向け半導体市場において、シェアを拡大していく可能性がある。
米国規制を受け、中国は車載向け半導体への投資を強化
Triolo氏は、「SMICやHua Hon Semiconductorなどの中国ファウンドリーは、2023年の米国による輸出規制によって、中国メーカーがより高度な半導体チップを製造するための装置を調達できなくなったことを受け、現在EV用チップの生産を拡大しているところだ」と述べる。
Triolo氏は、「中国の半導体メーカーは、イメージセンサーやエッジGPU、メモリ、通信用チップ、MCUなどを含むADAS(先進運転支援システム)向けチップの分野や、充電システム向けのSiC(炭化ケイ素)/GaN(窒化ガリウム)パワー半導体などの分野で競争を繰り広げることになる」と付け加えた。
「中国企業にとって、ADAS向けの高性能ASICの開発や国内での製造は困難になっていくだろう。一方で、これらの分野は現状、米国による輸出規制の対象にはなっていない。例えば、中国メーカーは現在も、高性能なNVIDIA製GPUを搭載したADASを入手することが可能だ。Huaweiが、米国の管理下にある技術をほとんどまたは全く使用しないスマートフォンを製造しようとしたのと同様に、中国メーカーも、EVに使われるあらゆる種類の半導体の国内代替品を開発することに注力するのではないだろうか」(Triolo氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.