東日本大震災からの復興の象徴に――次世代放射光施設「ナノテラス」にかける思い:東北大 高田教授が語る(2/3 ページ)
世界最高レベルの高輝度放射光施設として注目を集める「NanoTerasu(ナノテラス)」。2024年4月の本格稼働を前に、ナノテラス実現の立役者である東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター 高田昌樹教授に、ナノテラスの概要や誕生の背景を聞いた。
「3.11」からの復興へ、科学の力で東北経済を盛り上げる
――ナノテラスの建設は、どのような経緯で始まったのでしょうか。
高田教授 2011年3月11日に発生した「東日本大震災(3.11)」がきっかけだった。震災直後、甚大な被害を受けた東北の復興のために自分が科学者として貢献できることは何かを考えた結果、科学の力で東北経済を盛り上げることだという結論に至った。3.11の1週間後には構想案をまとめて提案し、関係各所に働きかけて人員や予算を確保していった。ナノテラスは、東北復興の象徴として実現を目指したともいえる。
――「ナノテラス」という名称の由来は何でしょうか。
高田教授 10億分の1を意味する「ナノ」と、世の中を照らす日本神話の「天照大御神(あまてらすおおみかみ)」を掛け合わせた。「ナノテラスで得られた知見や成果が、世界に豊かな実りをもたらしてほしい」という思いが込められている。
――ナノテラスは今後、どのような役割を担っていきますか。
高田教授 東北に限らず、日本のイノベーションのモール(中心)になるだろう。ナノテラスを中心に多くのヒトやモノ、資金が動くことになる。
一方で、ナノテラスは単なる手段にすぎない。ナノテラスに集まる人々が、ナノテラスを活用して、どのように社会とつながり、貢献していくかが重要だ。論文や特許のための研究ではなく、製品として世の中に出すことを目標にした重要な研究に使ってもらいたい。
――ナノテラスは、どのような研究分野での活用が想定されますか。特に、半導体分野ではどのような活用を見込んでいますか。
高田教授 半導体やエネルギー、医薬品、食料品などさまざまな分野での活用が想定されている。半導体分野では、回路構造や半導体材料の欠陥をナノレベルで可視化したり、電池内部の化学反応や劣化要因を把握したりといった用途に活用できるだろう。
――ナノテラスの本格稼働が2024年4月に迫っています。
高田教授 まずは、ナノテラスを使った企業/団体の「生の声」を集めることが重要だ。生の声は、ナノテラスの必要性を示す資料になり、国や地域、企業へのアピールにも使える。ナノテラスの重要性を出資先に示すことで、ナノテラスへの継続的な支援を確保することも、われわれの仕事だ。
――高田教授は2023年1月に、宮城県仙台第三高等学校でナノテラスに関する講演を行いました。生徒の反応はいかがでしたか。
高田教授 非常に反響が大きかった。今(2023年現在)の高校生は、5歳や6歳で3.11を経験していて、中には、家が流された人や、家族や友人を亡くした人もいる。そんな彼/彼女たちは、「自分たちが東北を守らなければならない」という強い思いを持っているように感じた。
生徒からは、「ナノテラスをどう活用していくかは、これからの時代を創っていく自分たちにかかっているという自覚が芽生えた」「私たち次第で世界がいい方向に変わるかもしれないという希望を持てた。これからたくさん勉強したい」「研究者になりたいと強く思った」など、うれしいコメントもいただけた。
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