東日本大震災からの復興の象徴に――次世代放射光施設「ナノテラス」にかける思い:東北大 高田教授が語る(3/3 ページ)
世界最高レベルの高輝度放射光施設として注目を集める「NanoTerasu(ナノテラス)」。2024年4月の本格稼働を前に、ナノテラス実現の立役者である東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター 高田昌樹教授に、ナノテラスの概要や誕生の背景を聞いた。
150社が利用意向を表明
東北大学は2023年12月14日、同年12月7日に「ファーストビーム」を達成したと発表した。ファーストビームとは、ナノテラスの円型加速器内に設置された挿入光源からの放射光X線を実験ホールに初めて導入し、観測することを指す。
ナノテラスには最大28本のビームラインを設置でき、2024年4月の運用開始時点では放射光を発射するためのビームラインが10本整備される。10本のうち、3本は世界最先端の研究に利用され、残り7本は、企業や団体がそれぞれの研究で利用する。
ナノテラスの運用は、コアリション(有志連合)形式を採用している。大企業や大学、国立研究開発法人は、1口5000万円(全210口)の加入金を支払ってコアリションメンバーになることで、ナノテラスの使用権(10年契約、年間200時間)を得る。また、単体で加入金の支払いが厳しい中小企業(東北6県および新潟県に限る)は、任意団体「ものづくりフレンドリーバンク(以下、MFB)」に加入することで、1口50万円でナノテラスの共同利用権(10年契約、年間2時間)を得られる。
コアリションメンバーへの加入を表明している企業/団体は2023年8月時点で約150社。その中で、コアリションメンバーへの加入を公表している企業には、NTTグループやアイリスオーヤマ、中外製薬など11社がある。その他、企業と同様の条件で加入した大学が8大学あり、現在も増え続けている。
ナノテラスの建設/整備費用は約400億円で、そのうち国からの補助金が200億円、宮城県および仙台市、産業界が残りの200億円をねん出している。なお、東北大学は、土地や人員を提供しているという。
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