「NVIDIAへの挑戦状」を手に入れる? Graphcoreの買収提案報道に見るソフトバンクの狙い:競争が激化するAIチップ分野(1/2 ページ)
英Graphcoreをめぐるうわさが業界をにぎわせている。その筆頭が、「ソフトバンクグループがGraphcoreの買収交渉に入っている」というものだ。ソフトバンクは、Graphcoreの人材やノウハウにより「NVIDIAへの挑戦状」を手に入れることを狙っているのだろうか。
2023年秋以来、Graphcoreに関するうわさが流れている。同社は、一部の主要な戦略的投資家たちから巨額の資金を調達したが、その資金が間もなく底をつきそうなため、買い手を探しているという。当時、買い手候補はArmではないかとささやく声もあった。取引に関するうわさは今も広がっているが、まだ何の情報も発表されていない。
しかし、ここ数週間で米国EE Timesの複数の情報筋が語ったところによると、この買収取引が間もなく成立しようとしているという。ソフトバンクグループ(以下、ソフトバンク)が買収して人材を獲得するとみられ、買収金額は、エンジニア1人当たり約100万米ドル、総額4億〜5億米ドルに達するようだ。
さらに、情報筋によると、Graphcoreの買収は、同社の製品であるIPU(Intelligence Processing Unit)チップやソフトウェアスタック「Poplar」のためではなく、開発チームや専門知識を獲得するためであるようだ。これにより長期的に、市場リーダーであるNVIDIAに挑戦できるようになるとみられる。
Graphcoreは、MicrosoftやBMW Venturesをはじめとする著名な戦略的投資機関から、7億6700万米ドルの資金を調達していた。Graphcoreが最近発表した2022年12月31日を末日とする年次報告書では、2022年度は2億400万米ドルの損失と、2億700万米ドルの営業経費、1億5700万米ドルの現金が計上されていた。
ソフトバンクの狙いは何だろうか。
2024年2月のBloombergの報道によると、ソフトバンクはAIチップのベンチャー設立を目指しているという。なぜ今、データセンター向けAIチップメーカーを立ち上げたいのだろうか。NVIDIAは現在、主にデータセンター向けAIをベースとして世界で最も価値ある企業の1社となり、一見したところこの巨大市場には、大変革を迎える時期が到来しているように見える。NVIDIAは実質的に、この数十億米ドル規模の市場全体を掌握しているのだ。
現時点では、NVIDIAに対抗できる“勝者”はいない
しかし現在、既存の挑戦者たちが全く存在しないというわけではない。最大手のAMDやIntelが競争力のある製品を提供している他、Graphcoreを含む6社の新興企業が、既に数年間にわたって製品開発を進めている。しかし、これらの挑戦者たちが、その企業規模に関係なく、これまでNVIDIAから大きなシェアを獲得できなかったという事実が、多くを物語っている。NVIDIAは今のところ、はるか先を進んでおり、他社がその差を挽回することは事実上不可能である。GPUの巨人であるNVIDIAの唯一の弱点は、多少なりとも自らの成功の犠牲者のようなものであるという点だ。販売価格が高く、供給が不足しているのだ。クラウドやスーパーコンピュータ(スパコン)を構築しようとする企業は、最先端技術製品を入手するために、高額な支払いと、“順番待ち”の長い列に並ばなければならないという問題に直面する。
誰もがNVIDIAの競合企業を求めている。高性能だが高額かつ入手困難な同社のハードウェアに完全に依存したくはないからだ。しかし、今のところ誰も、NVIDIAの既存の競合相手からはいかなる量も調達しようとはしない(明らかな例外はCerebras)。
状況はかなり差し迫っており、GoogleやAmazon Web Services、Meta、Microsoftなどのハイパースケーラー(報道によるとAppleも)は、AMDやIntel、スタートアップのハードウェアを使用するのではなく、専用AIアクセラレーターを自社開発し、社内ワークロード向けに専用のチップを作り、サプライチェーンを制御する方向へと動いている。しかし、この戦略には独自の課題として、最先端ノードに関する工場の生産能力やリードタイムの他、AIアクセラレーターチップ設計の技術者不足など(ただし必ずしもこれらに限定されるものではない)が挙げられる。
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