「NVIDIAへの挑戦状」を手に入れる? Graphcoreの買収提案報道に見るソフトバンクの狙い:競争が激化するAIチップ分野(2/2 ページ)
英Graphcoreをめぐるうわさが業界をにぎわせている。その筆頭が、「ソフトバンクグループがGraphcoreの買収交渉に入っている」というものだ。ソフトバンクは、Graphcoreの人材やノウハウにより「NVIDIAへの挑戦状」を手に入れることを狙っているのだろうか。
ソフトバンクは「NVIDIAキラー」になれるのか
ソフトバンクは、どうすれば他の多くの企業とは違うやり方でNVIDIAキラーになることができるのだろうか。以下に、いくつか提案してみたい。
提案1
ソフトバンクは、既存のAIインフラにシームレスに適合しながら、柔軟性や適用性、有用性などの面でNVIDIAの「CUDA」に比肩する、完全に形成されたソフトウェア製品を携え、何とか市場に参入することができるだろう。また、オープンソースであれば理想的だ(これは、控えめに言っても至難の業である。ソフトウェアの成熟には時間を要するのだ)
提案2
最先端ではないプロセスノードを適用したり、NVIDIAの最先端GPU/CPUを製造するTSMCよりも可用性が高いファウンドリーを活用したりすることで、サプライチェーンのボトルネックを緩和することができる。現在、HBM(広帯域幅メモリ)の供給や先端パッケージングの組み立てが大きなボトルネックになっているため、理想的にはHBMへの依存を少なくすることも可能だ(GraphcoreのIPUは、DDRのみを使用している)
提案3
NVIDIA製品よりも安価な製品を提供すること。ただし価格競争はこれまで、Habana Labs(またはGraphcore)の場合にはうまくいっていない。
提案4
米国以外の企業と合併することで、NVIDIAがチップを供給できない市場(例えば中国など。ただし中国国内の競争は厳しい)を開拓することができるかもしれない。輸出は可能だが制限されているという他の国々には、より容易に対応することができるだろう。理想的には、そのために政府が潤沢な補助金を提供してくれたり、設計エンジニアの人材が余っているような国を選択することだ。
提案5
ソフトバンク傘下のArmとの相乗効果を活用し、利益を増やす可能性も考えられる。ただし、その“相乗効果”が、どのような形をとるのかは不明だ。Armは現在、“NVIDIAキラー”となるAIアクセラレーターを実現できるような、データセンタークラスのNPU/GPU IPを提供していない。Armが提供しているのは、データセンター用CPU(NVIDIAの「Grace」など)向けのIPや、ハイパースケールの顧客が自社のデータセンター用CPU(Microsoftの「Cobalt」やAWSの「Graviton」)を構築するためのリファレンスデザインだ。サードパーティーがArmベースのAIアクセラレーターを開発する可能性は低いと思われる。Armアーキテクチャのライセンスにおいて、それほどの柔軟性が許容されるかどうかは議論の余地がある。
ソフトバンクが、上記のような組み合わせによる新しいシリコンベンチャーを検討しているのであれば、Graphcoreのエンジニアの才能を獲得することは、確かに有益なスタートダッシュとなるだろう。だが、NVIDIAに対抗するのに十分なスタートダッシュが切れるだろうか? (ソフトバンクの)秘策には、何かさらに特別な要素があるはずだ。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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