暗号処理を5000倍高速化 米新興のアクセラレーター:AI用途も想定(1/2 ページ)
完全準同型暗号(FHE:Fully Homomorphic Encryption)アクセラレーターを手掛ける米スタートアップが、同社初となるチップをテープアウトした。非常に高速な演算処理が可能なSoC(System on Chip)で、ブロックチェーンやAI(人工知能)などのアプリケーションを想定している。
完全準同型暗号(FHE:Fully Homomorphic Encryption)アクセラレーターのスタートアップであるNiobium Microsystems(以下、Niobium)は、最初のチップをテープアウトし、シード資金で550万米ドルを調達した。NiobiumのCEO(最高経営責任者)を務めるKevin Yoder氏が米国EE Timesに語ったところによると、Niobiumのチップは、標準的なCPUと比較してFHEを1000〜5000倍高速化するという。
FHEは、暗号化されたデータを復号せずに計算できる暗号化方式で、クラウド上の機密データの処理に大きな可能性を秘めている。ただし、計算量が非常に多いため、FHEの実装は現時点では現実的ではない。FHEハードウェアアクセラレーターは、CornamiやOptalysys、Niobium、Intel Labsなどの企業が発表している。
1000〜5000倍の性能向上は、実用的なFHEを実現するのに十分なのだろうか。
Yoder氏は、「これは当社が前進するのに十分すぎるほどの成果だと確信しており、既にいくつかの非常に大きな企業と協力している。将来の世代で可能な限りリアルタイムに近づくことを目指している」と述べている。
550万ドルの資金を調達、米政府も支援
Niobiumは、暗号化とプライバシーの研究開発コンサルタント会社であるGaloisからスピンアウトして、米国防高等研究院(DARPA)の「仮想環境でのデータ保護(DPRIVE:Data Protection in Virtual Environments)」プロジェクトの一環として、DARPAと開発契約を結んでいる。
Yoder氏は、「政府プロジェクトで得た資金を使って、チップをテープアウトすることができた。さらに、テストとパッケージングを行い、PCIe(PCI Express)カードに搭載する予定だ」と述べている。
Niobiumは最近、550万米ドルのシード資金を調達した。Yoder氏は、「この資金はNiobiumのソフトウェアチームの構築に充て、早期アクセスプログラムの一環として同社の最初の顧客への提供を開始する予定だ」と述べている。同プログラムでは現在、FHEソフトウェアの顧客にNiobiumのハードウェアのシミュレーションへのアクセスを提供しているが、利用可能になり次第、ハードウェアアクセスも提供する予定だという。
Yoder氏によると、これまでのところ、5〜6社が早期アクセスプログラムに興味を示しているとする。
今回調達した資金は、ヘルスケアや製薬研究、金融詐欺の検出、ブロックチェーン、デジタル広告などのFHEの商用アプリケーションの開発にも使用する予定だ。
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