カナダが半導体投資を強化 「大規模工場誘致」以外の活路とは:AIやパッケージングに注力(1/2 ページ)
カナダでは、連邦政府がAI(人工知能)や半導体産業への投資を表明しているほか、研究支援機関が5年間にわたる半導体産業支援のイニシアチブを立ち上げるなど、半導体産業への支援が活発化している。米国ほどの資金力がない中でカナダが行っている半導体支援策を紹介する。
カナダ連邦政府は最近、カナダ国内の半導体産業への直接的/間接的な支援強化に向けて資金提供を行うと発表しているが、カナダが半導体分野での過去の失敗を繰り返さずに規模を拡大するためには、まだまだやるべきことがある。
カナダのジャスティン・トルドー首相は2024年4月、AI(人工知能)関連の投資に24億カナダドル(約17億5000万米ドル)を拠出すると発表した。そのうち20億カナダドル(約15億米ドル)は、コンピューティング能力と技術インフラへのアクセス提供を目的とした「AI Compute Access Fund(AIコンピュートアクセスファンド)」に充てられる。カナダ政府はまた、5000万カナダドル(約3650万米ドル)を投じてAI安全研究所を立ち上げ、「悪質なAIシステム」からの保護の確立を支援する計画だという。
トルドー政権は、AIへの投資に続いて、半導体により特化した支援策も発表した。具体的には、IBM Canadaのブロモン工場(ケベック州ブロモン)の半導体パッケージングの生産能力/機能拡張と研究開発強化を支援するために1億8700万カナダドル(約1億3670万米ドル)を投資するという。
この2つの投資は、支持率が低迷しているトルドー政権が支持の回復を狙って行うものだ。これは、2025年の連邦選挙後に大きな政治的変化が起こることを示唆している。カナダでは政権交代の可能性が高く、資金調達の一貫性に重要な問題がある。この問題こそが、過去数十年にわたってカナダの半導体産業への投資を妨げてきたといえる。
FABrICは5年間にわたる支援を決定
半導体の資金調達に関するアイデアは政府以外にもある。非営利の研究支援機関であるCMC Microsystemsとカナダのイノベーション科学経済開発省(ISED:Innovation, Science and Economic Development Canada)は2024年7月上旬、半導体と先進製造業におけるカナダの未来を保証するためのイニシアブである「FABrIC」の立ち上げを発表した。
FABrICは、ISEDの戦略的イノベーションファンド(SIF:Strategic Innovation Fund)から5年間で1億2000万カナダドル(約8770万米ドル)の投資を受ける予定だ。これは、CMCのプレジデント兼CEO(最高経営責任者)を務めるGord Harling氏が以前から推進してきたイニシアチブである。
FABrICは、カナダの半導体企業や技術者、科学者に資金と技術的リソース、指導、トレーニングを提供する。Harling氏によると同イニシアチブは、化合物半導体、量子技術、フォトニクス、MEMSの新しい製造プロセス開発のリソースなど、カナダの強みにも焦点を当てているという。
FABrICからの資金は、スタートアップや既存企業、高等教育機関、研究機関に分配される。これらの資金は、5年間で2万5000人の学生と1000人の研究者をトレーニングし、カナダの大学の学生や研究者が先進半導体デバイスを設計/製造するための技術リソースに使用される。
Harling氏は、「半導体産業が長期的に成長し規模を拡大するには、一貫性のある安定した資金提供が不可欠で、FABrICはそれを提供する。一方、IBMが米国のニューヨークとバーモントの施設を閉鎖した後、カナダにコミットしたことは、多国籍企業への投資であったとしても、カナダの半導体産業にとって明るい兆しである」と述べている。
同氏は、「大手通信機器メーカーであるNortelの20年以上前の失態以来、カナダは半導体への投資誘致に苦戦してきた。投資に名乗りを上げる企業はなく、それは政府も同様だった。また、ベンチャーキャピタルの資金を誘致するには投資サイクルが長すぎた」と指摘している。
Harling氏は、「連邦政府の割り当て額(約17億6000万米ドル)は、MetaがAI支援のためにデータセンターに投じている300億米ドルと比較すると、それほど多くはない。カナダはAIの取り組みにおいて、半導体と同様に自国の強みを生かすことに注力すべきだ」と述べている。
「エッジ向け低消費電力AIデバイスを製造している企業はカナダに数多くある。そこに集中して資金を投入すれば、興味深い取り組みになるだろう」と同氏は述べている。
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