カナダが半導体投資を強化 「大規模工場誘致」以外の活路とは:AIやパッケージングに注力(2/2 ページ)
カナダでは、連邦政府がAI(人工知能)や半導体産業への投資を表明しているほか、研究支援機関が5年間にわたる半導体産業支援のイニシアチブを立ち上げるなど、半導体産業への支援が活発化している。米国ほどの資金力がない中でカナダが行っている半導体支援策を紹介する。
米国を補完する戦略で北米サプライチェーンの構築を狙う
IBM Bromontのエグゼクティブディレクターを務めるStephane Tremblay氏は、米国EE Timesの取材に対し、「連邦政府による多額の投資は、先端パッケージングの生産能力の増設や最新設備への置き換えなど、当社の意欲と一致している。同施設はフリップチップ相互接続技術に重点を置いていて、この技術は非常に急速に進化している」と述べている。
Tremblay氏は、「IBM Bromontの成長戦略は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後の地政学的状況の変化に対応したものだ」と述べ、「誰もが、半導体は経済のあらゆる面で極めて重要であると気付きつつある。パンデミックはサプライチェーンを混乱させ、東南アジアへの強い依存と、健全で回復力のある北米の半導体サプライチェーンを取り戻す必要性を浮き彫りにした」と付け加えた。
Tremblay氏は、米国がCHIPS法(CHIPS and Science Act)のようなイニシアチブで国内への大規模な投資を推進しているのに対し、カナダに適している戦略は補完的なアプローチだと考えているという。同氏は、「カナダには、数十億米ドル規模の最先端工場を誘致したり建設したりする資金力はない。しかし、カナダが北米のサプライチェーンで重要な役割を果たすことができる分野は他にもたくさんある。パッケージングはその一例だ」と述べている。
同氏は、「カナダの半導体分野への投資は、カナダの現在の状況を理解し、強みがある分野を拡大することで、機を逃さずに行うことが重要だ。そうすれば米国とパイを奪い合わずに、北米サプライチェーンにおける重要な関係性を構築できる。やるべきことはたくさんある。ここではやるべきは賢明な判断をして、自国のパートナーと密接に協力することだ」と語った。
Tremblay氏は、「IBM Bromontは、米国ニューヨーク州オールバニーの半導体エコシステム、オタワのMEMS製造、トロントの活動を含む『北東回廊』と呼ばれるものの一部で、研究から製造までの完全なエコシステムを構成している。北東回廊には、IP(Intellectual Property)の生成から商用化までの全てのバリューチェーンをサポートできる数多くのコンポーネントがあると確信している」と述べている。
カナダ最大のマイクロエレクトロニクス研究開発センターであるC2MIのCEOを務めるMarie-Josee Turgeon氏も、この回廊に強気の見通しを持っている。C2MIは最近、研究機会を強化し、経済と労働力の発展の可能性を拡大するために米国ニューヨーク州の半導体研究開発促進組織であるNY CREATES(New York Center for Research, Economic Advancement, Technology Engineering and Science)とのイニシアチブを発表した。
Turgeon氏は、「連邦政府による最近の投資もさることながら、半導体がケベック州経済の成長分野であることと、その強みへの戦略的投資が理にかなっていることをケベック州政府が理解しているのは、C2MIにとって幸運だった」と述べている。
同氏は、「米国に多くの工場が建設されていることを考えると、カナダに完全な工場を建設することは現時点では戦略的ではないが、化合物半導体やMEMSなど、カナダが活用できる技術は他にもある」と述べ、半導体設計、特にAIチップのハブとしてのトロントの役割を強調した。
連邦政府は、最近AIへの資金提供を発表したことから、ハードウェアとAIの未来との関連性を理解していると考えられる。Turgeon氏は、「カナダは今、AIアプリケーションおよびAIのリーダーとして絶好のポジションに立っている」と述べている。
Turgeon氏は、「AIには固有のコンピューティングニーズがあるため、ハードウェアが戦略上重要であり、それにはIBMがブロモンで行っているカスタムおよび先端パッケージングが関係している」と述べている。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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