Intelはどこで間違えた? 〜2つのミスジャッジと不調の根本原因:湯之上隆のナノフォーカス(75)(2/5 ページ)
Intelの業績が低迷している。業績以外でも、人員削減や「Raptor Lake」のクラッシュ問題など、さまざまな問題が露呈していて、Intelが厳しい状況に追い込まれていることが分かる。Intelはなぜ、このような状況に陥っているのか。そこには2つのミスジャッジと、そもそも根本的な原因があると筆者はみている。
スマホの破壊的イノベーションに駆逐されたPC
Intelは2000年頃から、携帯電話用プロセッサ事業に参入しようとしてM&Aを繰り返していた。しかし、どれもうまくいっていなかった。そのような中で、AppleからiPhone用プロセッサの生産委託の打診を受けたわけだが、今から考えると、これはIntelにとって千載一遇の大チャンスだったわけだ。しかし、Intelはその「大魚」を逃がしてしまった。
それどころか、2007年にAppleがiPhoneを発売すると、世界中にスマホが普及していき、「スマホがあればPCは必要ない」という人が増えたため、PCの出荷台数が2011年の3.7億台でピークアウトしてしまった(図3)。
要するに、PCはスマホの“破壊的イノベーション”に駆逐されたわけだ。IntelはiPhone用プロセッサの生産委託という大魚を逃しただけでなく、スマホの爆発的普及によって、PC用プロセッサの売上も低迷する事態に見舞われたことになる。まさに、“泣きっ面に蜂”であろう。
その後、IntelがAppleからの生産委託を断った事件は、「Intel史上、最大のミスジャッジ」といわれるようになった。その責任を追及されたOtellini CEOは、2013年に辞任に追い込まれた。
過去の歴史について、「if(もし、…だったら)」を考えることは無意味である。しかし、もしIntelがAppleの委託を受諾していたら……と考えずにはおれない。その場合、Intelが、PC、サーバ、そしてスマホのプロセッサを独占する巨大半導体メーカーになっていた……かもしれないからだ。
第2のミスジャッジ
第2のミスジャッジは2017〜2018年に起きた。2024年8月8日付のReutersニュースによると、「約7年前、同社(Intel)は当時、生成型人工知能(AI)と呼ばれるあまり知られていない分野に取り組む新興の非営利研究組織であったOpenAIの株式を購入する機会があった」という。
そして、前掲ニュースには、「関係者3人によると、両社の幹部は2017年と2018年の数カ月間、Intelが10億米ドルで株式15%を取得するなど、さまざまな選択肢を協議した。また、Intelが原価でスタートアップ企業向けにハードウェアを製造することを条件に、OpenAIの株式15%を追加取得することも協議したと関係者2人が語った」とも書かれている。
しかし結果的に、IntelとOpenAIとの取引は成立しなかった。その理由として、前掲ニュースは以下の2つを挙げている。
「その理由の1つは、当時のCEOのBob Swan氏が、生成AIモデルが近い将来に市場に投入され、チップメーカーの投資を回収できるとは考えていなかった」
「OpenAIはIntelからの投資に関心があった。この投資によってNVIDIAのチップへの依存が減り、自社のインフラを構築できるようになるためだ。しかし、Intelのデータセンター部門が原価で製品を作ることを望まなかったため、取引は成立しなかった」
そして、この後、事態は急変する。
OpenAIがChatGPTを公開
2022年11月30日、OpenAIがChatGPTを公開した。ChatGPTは瞬く間に世界中に普及し、ユーザー数は2カ月で1億人を突破した。また、ChatGPTの性能は急速に向上した。さらに、ChatGPTに対抗しようと、世界中で爆発的に生成AIの開発が始まった。今や世の中は、生成AIブームの真っ只中にいる。
そして、Intelが10億米ドルの出資をケチったOpenAIの評価額は800億米ドルを超えた。加えて、Intelが製造を拒否したデータセンター向けのAI半導体は、NVIDIAがほぼ独占するに至っている。
もともと、データセンター向けの半導体はIntelの主力ビジネスであり、2021年頃までは世界1位の出荷額を誇っていた。ところが、2022年11月30日にChatGPTが公開されて以降、Intelの出荷額がジリ貧であるのに対して、NVIDIAが急成長し、2024年4月には226億米ドルを記録した。
Intelの出荷額は同時期に、わずか30億米ドルにとどまっている。そして、AI半導体でNVIDIAに対抗しようとしているAMDが28.3億米ドルとなり、Intelに並びかけている(図4)。
もし、IntelがOpenAIの株式を取得し、AIサーバ向けの半導体を生産することになっていたら、世界の半導体の趨勢(すうせい)は、今とは大きく異なっていたのではないか。またしてもIntelは、大魚を逃してしまったとしか言いようがない。
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