GPSなしで太平洋を自律飛行も 東芝の慣性センサーモジュール:2026年度に製品化予定(1/2 ページ)
東芝は、MEMS技術を用いて小型化し、同時に世界最高レベルの精度を実現した「慣性センサーモジュール」を開発した。このモジュールの精度は、航空機に搭載して太平洋航路をGPSなしで自律飛行できるレベルだという。東芝電波プロダクツは、新開発のジャイロセンサーを用い、小型の「可搬型ジャイロコンパス」を開発した。
振動子の方向や周波数で動き検出、高精度と高DRを両立
東芝は2024年9月、MEMS技術を用いて小型化し、同時に世界最高レベルの精度を実現した「慣性センサーモジュール」を開発したと発表した。このモジュールの精度は、航空機に搭載して太平洋航路をGPSなしで自律飛行できるレベルだという。また、東芝電波プロダクツは、新開発のジャイロセンサーを用い、小型の「可搬型ジャイロコンパス」を開発した。
慣性センサーは、加速度センサーとジャイロセンサーで構成される。加速度センサーは物体が縦横に動く「並進運動」を、ジャイロセンサーは物体の「回転運動」を、それぞれ計測する。物体の移動量と回転量が分かれば、その動きや位置を求めることができるという。
つまり、慣性センサーを用いるとその出力だけで、自分の位置を割り出すことが可能であり、あらゆる環境で測位できるという特長がある。GPSはビル陰やトンネル内など電波が届かない場所では機能しない。カメラで撮影すると暗い場所では鮮明な画像が取得できない、といった課題も解決できる。
慣性センサーは既に、スマートフォンなどで利用されている。MEMS技術により小型化を実現しているが、スマホ向け慣性センサーは高い精度が期待できない。一方で、航空機や防衛システム、産業機器などに搭載される機械式/光学式慣性センサーは、高い精度が得られるものの、サイズは最小でも数十センチメートル角以上と大きくなっていた。
そこで東芝は、「ナビゲーショングレード」と呼ばれる機械式/光学式と同等精度を実現しながら、独自のMEMS技術を駆使してサイズが数センチメートル角と小さいMEMS慣性センサーの開発に取り組んだ。
新たに開発したのは「フーコーの振り子」の原理で角度を検出する「MEMS角度直接検出型ジャイロセンサー(MEMS-RIG)」と、共振はりの周波数変化で慣性力を検出する「MEMS差動共振型加速度センサー(MEMS-DRA)」である。
従来のMEMS慣性センサーは物理量を「重りの変位」で検出していた。新たに開発したMEMS慣性センサーは、動き検出に「変位」を用いず、振動子の方向や周波数で行う。これにより、高い精度と高ダイナミックレンジ(DR)を両立させた。
試作した慣性センサーモジュールの大きさは約12×8×2cmで200cc弱だが、開発目標としては10cc程度を目指している。バイアス安定性(BI)の目標は、ジャイロセンサーが0.01dph以下、加速度センサーが1μG以下と設定している。開発品の「アラン分散」を見ると、ジャイロセンサーのBIは0.01dphと同等かそれ以下、加速度センサーのBIは0.43μGと同等かそれ以下となった。
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