横浜国大、リチウムマンガン酸化物正極材料を合成:EVの高性能化、低価格化が可能に
横浜国立大学や名古屋工業大学、島根大学らの研究グループは、高いエネルギー密度で長寿命の電池正極材料となりうる「リチウムマンガン酸化物材料」の合成に成功した。急速充電にも対応できる材料で、電気自動車(EV)の高性能化、低価格化が可能となる。
ニッケル系層状材料と同程度の高エネルギー密度を実現
横浜国立大学の藪内直明教授や名古屋工業大学の中山将伸教授、島根大学の尾原幸治教授らによる研究グループは2024年8月、高いエネルギー密度で長寿命の電池正極材料となりうる「リチウムマンガン酸化物材料」の合成に成功したと発表した。急速充電にも対応できる材料で、電気自動車(EV)の高性能化、低価格化が可能となる。
EVの普及拡大には、搭載する二次電池の高性能化や低コスト化が必須となっている。現行のリチウムイオン電池では正極材料に、少量のコバルトを含むニッケル系層状酸化物が用いられており、これがコストダウンに向けた課題の1つとなっている。中国などでは安価な鉄系材料も採用されているが、炭素被覆が必要となっていた。
そこで横浜国立大学は、ナノ構造を高度に制御したリチウムマンガン酸化物(LiMnO2)正極材料を独自に開発した。コバルト・ニッケルフリーの構成でありながら、約800Whkg-1というエネルギー密度を実現した。この値は、従来のニッケル系層状材料と同程度である。
材料の合成手法も、一般的な「固相焼成法」を用いており、低コストで大量合成することが可能だという。急速充電特性にも優れている。約10分で8割程度まで再充電が可能であり、ニッケル系材料と比べても遜色ないレベルとなった。
横浜国立大学は、さまざまなLiMnO2の結晶多形を合成し、「結晶構造と充放電時の相変化挙動」や「材料の比表面積とエネルギー密度の相関関係」を調べた。この結果、複合的ドメイン構造を有していることや、比表面積が大きな試料を合成できれば、優れた電極特性を持つ材料になることが分かった。
さらに、名古屋工業大学はこれら材料の相変化挙動に影響する因子を理論的に解析した。また、島根大学は直方晶と単斜晶の複合的ドメインを有する材料の特徴的なナノ構造を解析した。
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