次世代燃料電池「PCFC」の発電性能を大幅に向上、内部短絡を抑制:70%超の発電効率も実現可能に
横浜国立大学と産業技術総合研究所(産総研)および、宮崎大学の研究グループは、プロトン伝導セラミック燃料電池(PCFC)の内部短絡を抑えることで、発電性能を大幅に向上させた。実験データを再現できる計算モデルも構築した。
実験データを再現できる計算モデルも構築
横浜国立大学の荒木拓人教授と李坤朋IAS助教、産業技術総合研究所(産総研)極限機能材料研究部門の島田寛之上級主任研究員と水谷安伸招聘研究員および、宮崎大学の奥山勇治教授らは2023年10月、プロトン伝導セラミック燃料電池(PCFC)の内部短絡を抑えることで、発電性能を大幅に向上させたと発表した。同時に、実験データを再現できる計算モデルも構築した。
家庭用発電機として普及が進む固体酸化物形燃料電池(SOFC)などに比べ、PCFCは理論的に高い発電効率が得られるという。しかし、電解質がプロトンだけでなく、正孔を伝導して内部短絡をするため、発電効率が低下するなどの課題もあった。こうした影響を計算によって正確に評価することもこれまでは難しかった。
そこで研究グループは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進める「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業」の委託を受け、内部短絡を抑制できるPCFCの開発や、計算モデルの構築に取り組んできた。
研究グループは今回、電解質にイッテルビウム添加ジルコン酸バリウム(BaZr0.8Yb0.2O3−δ、BZYb)を用いた。しかも、材料組成などを制御することで正孔伝導の影響を抑えた。また、製造プロセスの最適化などにより、膜厚が約5μmの電解質でも内部短絡を抑制することができる技術を開発した。さらに、ナノ複合電極技術を用いたことで、動作温度が550℃と低くても、出力密度は約0.6W/cm2が得られたという。
同時に、PCFCの効率を高精度かつ簡易に予測できる計算モデルを構築した。実験で取得したプロトン伝導性電解質の材料物性などを計算モデルに入力すれば、より正確な計算が行える。計算モデルを用いて算出した値と今回開発したPCFCの測定値は、高い精度で一致することを確認した。
電解質の膜厚や作動温度、燃料利用率といった条件を設定して発電特性を算出したところ、開発したPCFCは作動温度が500℃であれば、70%超の発電効率を実現できることが分かった。
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