100Tbps超の伝送容量で800kmの光増幅中継伝送に成功:超長波長帯一括変換技術の開発で(2/2 ページ)
NTTは2024年9月3日、既存のファイバー上で集中光増幅器のみを用いて、毎秒100テラビット(100Tbps)を超える伝送容量で800km以上の長距離光増幅中継伝送に「世界で初めて」(同社)成功したと発表した。新たに開発した超長波長帯一括変換技術を用いて実現したものだ。
伝送距離2400kmで、毎秒72.6テラビットの伝送容量を達成
NTTは、特定の波長の光を増幅する技術「光パラメトリック増幅」の1つの機能である波長帯変換に着目し、L帯とU帯の間で波長変換が可能なPPLN(周期分極反転ニオブ酸リチウム)導波路を新たに設計/作成し、WC技術として実装した。また、WC技術とEDFAを組み合わせたU帯光増幅中継器を開発。U帯波長多重信号をL帯に変換し、L帯での利得等化と損失をEDFAで補いつつ、再度U帯に変換することでU帯光増幅中継を可能にした。これにより、従来波長帯のC帯/L帯に、U帯を加えた3つの波長帯を用いて波長資源を14.85THzまで拡大し、長距離かつ大容量の光増幅中継伝送を実現した。
同社担当者は、今回の研究成果について「U帯向けのPPLN導波路を用いたWC技術については、20年以上研究している。2020年頃から実用化に足るレベルの成果が得られていて、今回の発表もこれまでの技術の蓄積による成果だ」と語った。
誘導ラマン散乱の課題については、ガウシアンノイズモデルと呼ばれる理論計算モデルを独自に改良し、3つの波長帯の合計伝送容量が最大になるように調整した。これにより、誘導ラマン散乱効果を利用し、C帯/L帯かの信号光から、損失の大きいU帯信号にパワーを遷移させることでU帯において実効的に低損失化し、伝送容量と長距離化を両立した伝送設計が可能になった。
今回の研究では、中継間隔80kmの周回伝送実験系を構築し、14.85THz帯域の光増幅中継伝送実験を実施した。各波長のデジタルコヒーレント信号として144ギガボー PCS-QAM信号を採用。光増幅中継器は、C帯/L帯ではそれぞれに対応したEDFAを、U帯は波長帯変換技術を適用した光増幅中継器を適用した。高速回路技術とデジタル信号処理技術を適用することで、伝送距離に応じて1波長当たり約600Gbps(ギガビット/秒)から最大1.3Tbpsまでの高速多重光信号を高品質に送受信可能にした。結果、伝送距離480kmでは125.6Tbps、800kmでは115.3Tbpsの伝送容量を得られた。また、2400km伝送後においては、72.6Tbpsを達成し、長距離光増幅中継伝送における超長波長帯への波長資源拡大の可能性も実証した。
今回発表した技術の実用化時期について、担当者は「変換効率の向上や通信信頼性の確認を行い、2030年以降にIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)/6G(第6世代移動通信)におけるAPN(オールフォトニクスネットワーク)としての実用化を目指して研究を進める。実用化すれば、大容量のデータ通信をより安価に提供できるようになる」と説明した。
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