東京大学、非線形熱電効果を測定しその効果を実証:「温度揺らぎ」を利用した熱電技術
東京大学は、物質中の温度差(温度勾配)の2乗に比例する非線形熱電効果を測定する手法を開発し、その効果を実証することに成功した。「温度揺らぎ」を用いた、新しいセンサーや環境発電素子の動作原理として期待される。
新しいセンサーや環境発電素子の動作原理として期待
東京大学大学院工学系研究科の有沢洋希助教と齊藤英治教授らによる研究グループは2024年9月、物質中の温度差(温度勾配)の2乗に比例する非線形熱電効果を測定する手法を開発し、その効果を実証することに成功したと発表した。「温度揺らぎ」を用いた、新しいセンサーや環境発電素子の動作原理として期待される。
物質中に巨視的な温度差があれば、熱電効果により電圧が発生する。逆に温度勾配が極めて小さいと、電圧は生じないとみられていた。ところが、実際は「温度揺らぎ」と呼ばれる温度の変動がある。しかしこれまでは、この温度揺らぎが見過ごされていたという。
研究グループは今回、温度揺らぎを利用できそうな、温度勾配の2乗に比例した電場が生じる「非線形熱電効果」について実証することとした。そこで注目した物質が第二種超伝導体の「MoGe(モリブデンゲルマニウム)」である。MoGeに外部磁場を加えたところ、「ボルテックス」と呼ばれる磁気欠陥がMoGe内に生じた。これに温度勾配を与えると、ボルテックスの運動に起因して熱電効果が生じた。
しかも、MoGeを磁性体Y3Fe5O12上に作製すれば、ボルテックスと磁性体中の磁化が相互作用し、ボルテックスの運動が非線形・非相反になるといわれている。つまり、ボルテックスの非線形性とボルテックス由来の熱電効果によって、非線形な熱電効果を発現するというわけだ。
これを実証するため研究グループは、MoGe/Y3Fe5O12に対し、2つのヒーターを取り付ける新たな測定手法を開発した。このヒーターで試料面直方向に温度勾配を与え、MoGe面内方向の電圧を測定した。この結果、ボルテックスの運動が非線形になる特定の磁場領域で、非線形電圧ピークが生じていることを確認した。また、温度勾配の位相を制御することで、観測された電圧が特徴的な位相依存性を示すことも分かった。
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