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好調なんてとんでもない! 前年比28%増を記録した半導体市場の現在地大山聡の業界スコープ(81)(2/2 ページ)

世界半導体市場統計(WSTS)によれば、2024年8月の世界半導体市場規模は前年同月比28.0%増と大きく成長した。果たしてその数字通り、半導体市場は好調なのだろうか。半導体市場の現状と今後の見通しについて考えてみた。

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安定成長の継続に期待 アナログ

 アナログ市場は、2024年1月から8月までの累積では前年比4.2%減、2023年初頭からマイナス成長が続いていたが、ようやくプラス成長に転じるメドが付き始めた。特に汎用アナログの市況が2023年末をボトムに回復しそうな動向を見せている点に注目したい。もともと需要は安定していたはずだが、コロナ禍のパンデミックで仮需が膨らんだことが要因なので、これが解決するのは時間の問題だろう。特定用途向けアナログは、通信向けが好調、クルマ向けが不調など、まだら模様だが、全体としては何とかプラス成長を維持している。クルマ向けの不調はまだ長引く可能性があるが、アナログ全体としてはまた安定成長が期待できるだろう。

懸念材料多く残る マイクロ

 MPUやMCUで構成されるマイクロ市場は、2024年1月から8月までの累積では前年比4.6%増でありプラス成長ではあるが、2024年7〜8月はマイナス成長に落ち込んでいる点が気掛かりである。2023年は不調のMPU市場を好調なMCU市場がカバーする形で推移していた。だが、2024年初頭からMCU市場がマイナス成長に落ち込み、これをボトムアウトしたMPU市場がカバーする形になっている。しかしPC市場が精彩を欠いている状況ではMPUの回復に力強さがなく、MCU市場の下落を支えきれずに全体がマイナスになってしまった、とみることができる。唯一、サーバ向けMPUが好調だが、この需要が(統計上ロジックにカウントされる)GPUに侵食されていること、クルマ向けを中心にMCUのボトム期がまだ確認できないこと、などと考えると、2025年も懸念材料は残りそうである。

堅調な状態が続く ロジック

 ロジック市場は、2024年1月から8月までの累積では前年比17.8%増であり、メモリ以外では唯一の2桁成長を維持している。このような伸びが見られるのは、スマホ市場が好調な時が多いが、昨今はデータセンター、通信インフラなど、ITインフラ向けの需要がけん引役になっている。AIサーバに搭載されるGPUはNVIDIAが事実上独占状態だが、データセンターや通信キャリア向けのASSPやASICは、米国系だけでなく日系のソシオネクストなども業績を伸ばしている。当面はこの堅調な状態が継続されそうな見込みであり、これにスマホ向けの需要が加われば、ロジック市場の成長率はさらにアップすることが期待できよう。

高成長が期待できる メモリ

 そしてメモリ市場だが、2024年1月から8月までの累積では前年比95.1%増であり、極めて高い成長率を維持している。メモリ需要は、PC向け、スマホ向け、データセンター向けが主なアプリケーションだが、PCもスマホも需要はあまり活性化しておらず、データセンター向けが極めて好調に推移していることが昨今の特徴である。特にDRAMはGPU向けに高速I/Oを可能とするHBM(High Bandwidth Memory)の需要が増えつつあり、DRAMメーカーはHBMで先行するSK Hynixを追いかける形で増産を計画している。これに比べるとNAND型フラッシュメモリの話題はやや乏しいが、やはりデータセンター向けに需要が大きく伸びている。データセンター向けの投資は今後さらに加速することが予想されるため、メモリ市場は2025年も高成長が期待できるだろう。キオクシアも今度こそ、上場のタイミングをつかんでもらいたいところだ。

 以上が現在の半導体市況に関する分析であり、今後の見通しである。

日系メーカーにとっての半導体市場の好転は早くて25年初めか

 アプリケーションとしては、ITインフラだけが活況で、恩恵を受けているのはメモリメーカーと一部のロジックメーカーだけ、ということになろう。逆にクルマ向けは在庫問題が片付いておらず、産業機器向けは中国のマクロ経済低迷がマイナス要因となっている。在庫問題が片付くのは時間の問題であり、中国のマクロ経済もボトム期は脱したようなので、2025年以降は好転する可能性が高い。ただし、デバイス市場の中にはまだボトム期が確認できていない市場もあるので、回復のタイミングにはばらつきが出そうである。多くの日系半導体メーカーにとって、市況の好転は早くて2025年初頭、遅ければ2025年中ごろまで待たされる可能性もあるだろう。2024年11月下旬にはWSTSの秋季予測が発表されるので、半導体市況についてはそのタイミングでもう一度見直してみたい。

連載「大山聡の業界スコープ」バックナンバー

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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